田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ダンシング・チャップリン』

2020-04-20 18:55:47 | 映画いろいろ

『ダンシング・チャップリン』(11)(2011.5.7.銀座テアトルシネマ)

 草刈民代のバレエ人生36年の集大成として、フランスの振付家ローラン・プティがチャールズ・チャップリンを題材としたバレエ作品を映画として撮影・編集した作品。監督・構成は夫の周防正行。

 この映画は、メーキングドキュメンタリーとバレエ本編という二部構成を取っている。そのため、草刈の相手役が交代するという緊迫した場面も含めて、実際にバレエがどのように作られていくのかを知った上で本編を見ることができる。

 これはバレエには全く無知な自分にとっては大きな助けとなったが、同時に、ルイジ・ポニーノという素晴らしい表現者の存在を知らされ、彼の素顔とバレエを一度に見ることができた喜びを感じることもできた。

 言わばこの映画は、周防監督によるバレエ入門映画であり、僧侶、相撲、社交ダンス、裁判に続く周防流のハウツー映画でもある。そして、プティの舞台演出に対する映画監督・周防正行の挑戦という見方もできる。

 この映画を見るきっかけは、もちろん、チャップリンの映画がどのようにバレエ化されたのかに対する興味だったのだが、もともとチャップリンの映画には、素晴らしい音楽、サイレント(無言劇、パントマイム)へのこだわり、驚くばかりの動きやアクロバチックなダンスなど、バレエの影響を感じさせるものが多い。

 その極みは、ニジンスキーの「牧神の午後」をまねた『サニーサイド』(19)のワンシーンだろうか。そう考えるとチャップリン映画のバレエ化も、それを映画の世界に戻したこの映画も目新しくはないのかもしれない。

 などと偉そうに書いたが、実は『サニーサイド』のエピソードを教えてくださったのはかの淀川長治先生。『淀川長治の証言 チャップリンのすべて』という本を一緒に作った時に、身振りや手振りを交えながら楽しく語ってくださった。チャップリンが神様で、バレリーナになりたかったともおっしゃっていた先生が、この映画を見たらどんな感想を持たれたことだろう。チャップリンと言えば先生のことを思い出す。

2012.9.【違いのわかる映画館】vol.24 銀座テアトルシネマ(2013.5.閉館)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/7c2edc2c8f9678aea246404efe299f0b

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ファンシイダンス』 周防正行監督作品

2020-04-20 11:00:55 | 映画いろいろ

『ファンシイダンス』(89)

 ロックバンドのボーカルで大学生の陽平(本木雅弘)は、実家の寺を継ぐため、恋人の真朱(鈴木保奈美)を東京に残し、頭を丸めて田舎の禅寺へ入ることに。待ち受けていたのは、個性あふれる先輩坊主たちと想像以上に厳しい修行の日々だった…。岡野玲子の人気コミックを周防正行監督が映画化。

『シコふんじゃった。』(92)
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/2eec70c151635bf89258350deb0b8848

元祖『Shall we ダンス?』×ハリウッド版『Shall we Dance? シャル・ウィ・ダンス?」



【映画コラム】新人女優、上白石萌音を発見するための映画『舞妓はレディ』
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/966693

【インタビュー】『カツベン!』周防正行監督、成田凌
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/3e05619830e2646254dc35f638aab180

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『ハスラー2』

2020-04-20 09:53:48 | 映画いろいろ

『ハスラー2』(86)(1987.1.29.日劇プラザ)

 前作『ハスラー』(61)から25年後の続編。これは『サイコ』(60)から『サイコ2』(83)の23年を超えて、続編が作られるまでの期間の新記録とのこと。25年といえば、今の自分と同じ年なわけだから、これは両作に大きな違いがあっても当然のことだ。

 何より、この続編には色がある(原題も「ザ・カラー・オブ・マネー」)。前作はモノクロで撮られたことで、時代背景となった60年代前半独特の暗さや、たばこの煙と酒のにおいがしみ込んだビリヤード場の雰囲気を出すことに成功していたし、何より、ビリヤードを職業とするハスラー自体が、日陰者の存在だった。

 だから、主人公のエディ・フェルソン(ポール・ニューマン)とミネソタ・ファッツ(ジャッキー・グリーソン)が繰り広げる競技としての面白さもさることながら、むしろ、悲しみを感じさせる人間ドラマとしての印象の方が強く残ったのだ。

 ところが、この続編は、動き回るカメラでナインボールのカラフルさが強調され、トム・クルーズ演じる新人類的なハスラー・ビンセントには挫折も暗さもなく、ひたすらかっこいい若者として描かれている。

 そして、このビンセントと、老いて一度はビリヤードから離れたエディの対比が、嫌でも25年という歳月の長さを感じさせ、それがこの映画が語るテーマの一つとして浮かび上がってくる。

 とはいえ、自分はエディによって体現された、年を取っても変わらない男としての自負やプライド、衰えを感じながらも、自らを貫く意地や業の方に強く魅かれた。これはハスラーとビリヤードとの関係というよりも、人間の宿命と言った方がいいのかもしれない。

 このところ『キング・オブ・コメディ』(83)『アフター・アワーズ』(85)と不調が続いたマーティン・スコセッシだが、前作とは違ったアプローチから、現代風なものも取り入れながら、こうしたことを感じさせてくれた。その復活がうれしかったし、ニューマンは、もはや神話の域に達したと言っても過言ではない俳優になったような気がした。

【今の一言】25歳の時に書いた一文。“新人類”なんて言葉が出てくるところに時代を感じる。ニューマンはこの映画の演技によって、7回目のノミネートで、ついにアカデミー主演男優賞に輝いた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする