『ダンシング・チャップリン』(11)(2011.5.7.銀座テアトルシネマ)
草刈民代のバレエ人生36年の集大成として、フランスの振付家ローラン・プティがチャールズ・チャップリンを題材としたバレエ作品を映画として撮影・編集した作品。監督・構成は夫の周防正行。
この映画は、メーキングドキュメンタリーとバレエ本編という二部構成を取っている。そのため、草刈の相手役が交代するという緊迫した場面も含めて、実際にバレエがどのように作られていくのかを知った上で本編を見ることができる。
これはバレエには全く無知な自分にとっては大きな助けとなったが、同時に、ルイジ・ポニーノという素晴らしい表現者の存在を知らされ、彼の素顔とバレエを一度に見ることができた喜びを感じることもできた。
言わばこの映画は、周防監督によるバレエ入門映画であり、僧侶、相撲、社交ダンス、裁判に続く周防流のハウツー映画でもある。そして、プティの舞台演出に対する映画監督・周防正行の挑戦という見方もできる。
この映画を見るきっかけは、もちろん、チャップリンの映画がどのようにバレエ化されたのかに対する興味だったのだが、もともとチャップリンの映画には、素晴らしい音楽、サイレント(無言劇、パントマイム)へのこだわり、驚くばかりの動きやアクロバチックなダンスなど、バレエの影響を感じさせるものが多い。
その極みは、ニジンスキーの「牧神の午後」をまねた『サニーサイド』(19)のワンシーンだろうか。そう考えるとチャップリン映画のバレエ化も、それを映画の世界に戻したこの映画も目新しくはないのかもしれない。
などと偉そうに書いたが、実は『サニーサイド』のエピソードを教えてくださったのはかの淀川長治先生。『淀川長治の証言 チャップリンのすべて』という本を一緒に作った時に、身振りや手振りを交えながら楽しく語ってくださった。チャップリンが神様で、バレリーナになりたかったともおっしゃっていた先生が、この映画を見たらどんな感想を持たれたことだろう。チャップリンと言えば先生のことを思い出す。
2012.9.【違いのわかる映画館】vol.24 銀座テアトルシネマ(2013.5.閉館)
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