『次郎長三国志』(2008.7.9.角川試写室)
幕末の侠客、清水の次郎長とその一家の存在を、後世に語り継ぐ役割を果たした人々がいる。次郎長の養子になった天田五郎が記した『東海遊侠伝』。「次郎長伝」を広めた講釈師の神田伯山。浪曲師、広沢虎造の名調子。村上元三の『次郎長三国志』とそれを何度も映画化したマキノ雅弘監督。彼らがいなければ、次郎長はもとより、大政、小政、法印大五郎、桶屋の鬼吉、森の石松、増川仙右衛門、追分三五郎、関東綱五郎といった個性豊かな子分たち、黒駒の勝蔵や保下田の久六といった敵役も、歴史の中に埋もれていたことだろう。
最初に見た“次郎長伝"は、竹脇無我主演のテレビドラマ。それから鶴田浩二主演の東映版、小堀明男主演の東宝版にさかのぼって、結局はいろいろと見ていることになる。よく泣き、よく歌う、純情で不器用な愛すべき男たち。だんだんと仲間が増えていくグループ劇としての面白さもある。そして旅とけんかと恋女房、これだけ揃えば、映画やドラマの素材としては格好で、番外編も含めて、誰が撮ってもそこそこ面白く描ける題材だろう。
で、今回は、マキノ雅弘の甥で、増川仙右衛門を演じたこともある津川雅彦がマキノ姓を名乗って監督し、次郎長役の中井貴一をはじめ、子分衆も頑張ってはいるのだが、やはり過去の田中春男の法印、田崎潤の鬼吉、水島道太郎の小政、河津清三郎と大木実の大政などにはかなわない(森繁久彌の石松は、うま過ぎて少々鼻につく)。そんな中で、今回は、次郎長の恋女房お蝶役の鈴木京香がなかなか良かった。
それにつけても、「旅姿三人男」(作詩 宮本旅人 作曲 鈴木哲夫 昭和13年)は、今回の宇崎竜童版は、あまりピンとこなかったが、曲自体は改めて名曲だと感じさせられた。
♪清水港の名物は お茶の香りと男伊達 見たか聞いたかあの啖呵 粋な小政の 粋な小政の 旅姿
富士の高嶺の白雪は 溶けて流れるまし水で 男磨いた勇み肌 何で大政 何で大政 国を売る
腕と度胸じゃ負けないが 人情絡めばついホロリ 見えぬ片目に出る涙 森の石松 森の石松 良い男
男清水の次郎長は 愛しい女房を振り分けて 那賀の長旅那賀の國 富士が見送る 富士が見送る 茶の香り♪