田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『罪と悪』

2024-01-08 22:16:56 | 新作映画を見てみた

『罪と悪』(2023.12.11.オンライン試写)

 中学生の正樹が何者かに殺され、遺体は橋の下に捨てられていた。正樹の同級生である春、晃、双子の朔と直哉は、正樹が度々訪れていた「おんさん」と呼ばれる老人が犯人に違いないと考え、家に押しかけてもみ合ううちにおんさんを殺してしまう。そして、おんさんの家に火を放ち、彼らは秘密を共有する。

 22年後、刑事になった晃(大東駿介)が父の死をきっかけに町に帰ってくる。久々に会った朔(石田卓也)は引きこもりになった直哉の面倒を見ながら実家の農業を継いでいた。

 やがて、かつての事件と同じように、橋の下で少年の遺体が発見される。捜査に乗り出した晃は、建設会社を経営する春(高良健吾)と再会。春は不良少年たちの面倒を見ており、被害者の少年とも面識があった。晃と朔、そして春が再会したことで、それぞれが心の奥にしまい込んでいた22年前の事件の扉が再び開き始める。

 幼なじみの少年たちが背負った罪と、22年後に起きた新たな殺人事件の行方を描いたノワールミステリー。監督は本作が長編デビューとなる齊藤勇起。佐藤浩市、椎名桔平、村上淳らが脇を固める。

 齊藤監督のオリジナル脚本による映画だが、少年への性的虐待に端を発した事件と、幼なじみの3人の男性のその後の運命を描くという点では、バリー・レビンソンの『スリーパーズ』(96)やクリント・イーストウッドの『ミスティック・リバー』(03)を思い起こさせる。

 また、約25分のアバンタイトルで過去を描き、話はいきなり22年後に飛ぶ。そして、再会した3人の22年間と二つの類似した事件との関りが徐々に明かされていくのだが、登場人物の描き方が曖昧で話も暗いので、見ながら気が滅入る。

 最近の若い監督が作る小品は、こうした傾向が目立つ。彼らはよほど屈折しているのか、今の世の中はそんなに希望がないのか、闇が深いのかと思うと、暗澹たる気分になる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「第81回ゴールデングローブ賞」

2024-01-08 18:21:47 | 映画いろいろ

作品賞(ドラマ)『オッペンハイマー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0852497d9704e15949d9c3854b4a9bb8

作品賞(コメディ&ミュージカル)『哀れなるものたち』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/caf838a41cbf228a99f31f13fa55195b

監督賞:クリストファー・ノーラン『オッペンハイマー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0852497d9704e15949d9c3854b4a9bb8

主演女優賞(ドラマ):リリー・グラッドストーン『キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン』https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/b475cd13789f84f8ce474735ddb91d6c

主演男優賞(ドラマ):キリアン・マーフィー『オッペンハイマー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0852497d9704e15949d9c3854b4a9bb8

主演女優賞(コメディ&ミュージカル):エマ・ストーン『哀れなるものたち』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/caf838a41cbf228a99f31f13fa55195b

主演男優賞(コメディ&ミュージカル):ポール・ジアマッティ『The Holdovers(原題)』

助演女優賞:ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ『The Holdovers(原題)』

助演男優賞:ロバート・ダウニー・Jr.『オッペンハイマー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0852497d9704e15949d9c3854b4a9bb8

アニメ映画賞『君たちはどう生きるか』

非英語作品賞『落下の解剖学』(フランス)

脚本賞:ジュスティーヌ・トリエ(写真)&アルチュール・アラリ 『落下の解剖学』

楽曲賞『バービー』「What Was I Made For?」ビリー・アイリッシュ&フィニアス・オコネル
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/4ecedd891d2119dd3dc779b4d582b8c5

作曲賞:ルドウィグ・ゴランソン『オッペンハイマー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/0852497d9704e15949d9c3854b4a9bb8

シネマティック&ボックスオフィス・アチーブメント(興行成績賞)『バービー』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/4ecedd891d2119dd3dc779b4d582b8c5

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

『拝啓天皇陛下様』

2024-01-08 01:09:04 | 映画いろいろ

中村メイコの訃報に接してこの映画のことを思い出した。

『拝啓天皇陛下様』(63)(1989.11.25.)

 ヤマショウこと山田正助(渥美清)は、三度の飯にありつける上、俸給までもらえる軍隊が大好き。戦争が終るといううわさが流れると、天皇に向けて「軍隊に残してください」と手紙を書き始める。

 ヤマショーと、戦友であり良き理解者でもあるムネさんこと作家の棟本博(長門裕之)との長年にわたる関係を軸に描いた戦争悲喜劇。戦後にムネさんが回想する形で物語が進んでいく。監督・脚本は野村芳太郎。

 子どもの頃にテレビで見て、断片的な記憶しかなく、タイトルもおぼつかないのに、なぜかあるシーンだけを強烈に覚えている映画が何本かあった。

 この映画のラストの雪の中を酔っぱらって千鳥足で歩く渥美清の姿もその一つであり、後年、改めてこの映画の全編を見た時に、覚えていたラストシーンの記憶と一致して、長い間見付からなかった忘れ物が出てきたような喜びを感じたものだった。

 その終幕はこんな流れだ。ヤマショウが久しぶりにムネさんと妻の秋子(左幸子)の下を訪れ、婚約者の井上セイ子(中村メイコ)を紹介する。喜び合う4人。

 そこから一転して、雪の朝、ヤマショウが交通事故死したという新聞記事を見つけた秋子が、慌てて「あなた。ヤマショーさん死んだ。死んだわよ」と知らせるシーンになる。

「こんなことって世の中にあっていいのかしら」
「~山田さんは相当酔っていた模様で事故は全くの不注意」
「ばかよ! あの人またお酒飲んだのよ。これから幸せになれるっていうのに」
「慌てるな。間違いかもしれないじゃないか」
「だって、あなた」
「もしもあいつだとしたら、あの井上さんって人が必ず知らせてくるはずだ。そうだろ」
「うん」
「服出せ。警察行って聞いてみる」
「あなたそうして。間違いよね。きっとそうよね」
「出せ」
「あの人が今死ぬなんて、そんなこと絶対にないわよね」
「そうだ。あんないい人が見付かってこれからだというのに、あのばか。ワイシャツ。何してんだ」
「でも、もし間違いでなかったら。本当だったら」
「ばかもん。そんなはずあるか」
「でも、ヤマショーさん。昔からそういう人だったじゃないの」
「とにかく確かめてみなくちゃ」
心底ヤマショウの身を案じて狼狽する2人のやり取りが素晴らしい。

 そして、それに続いて、セイ子の店を出て酔っぱらって千鳥足で雪の中を歩くヤマショウの、死を予感させる回想シーンになり、そこに芥川也寸志作曲の優しいオルゴール風のメロディが流れるという一連の流れは、何度見ても涙を誘う。

 その後も何度か見直しているが、先の天皇崩御の際に、なぜこの映画を放送しなかったのかと思うほど、この映画は、戦前から終戦直後に至る日本の一庶民の悲しい歴史の証言であり、我々その時代を知らない者にとっては、天皇という存在がどのように捉えられていたのかを知るためのよすがともなる。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする