田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『白日青春 生きてこそ』

2024-01-24 22:12:47 | 新作映画を見てみた

『白日青春 生きてこそ』(2024.1.23.オンライン試写)

 パキスタンから香港へやって来た難民の両親の間に生まれ、香港で育った少年ハッサン(中国名:青春)は、家族と共にカナダへ移住することを夢見ていた。

 ところがある日、父が交通事故で亡くなり、その夢は奪われてしまう。ハッサンは難民のギャング団に加わるが、警察のギャング対策に巻き込まれて追われる身となる。

 一方、1970年代に中国本土から泳いで香港に密入境したタクシー運転手のチャン・バクヤッ(白日)は、警察官として働く息子との関係がうまく行かずに悩んでいた。

 バクヤッはハッサンの逃亡を手伝うことを決心し、2人の間には絆が芽生え始めるが、やがてハッサンはバクヤッこそが父の命を奪った事故を引き起こした運転手だったと知る。

 香港を代表する名優アンソニー・ウォンが主演し、孤独なタクシー運転手と難民の少年の交流を描いたヒューマンドラマ。映画初出演となるパキスタン出身のサハル・ザマンがハッサンを演じ、本作が長編第1作となる香港の新世代監督ラウ・コックルイ(中華系マレーシア人4世)がメガホンを取った。

 香港と中国本土との関係の難しさ、パキスタン難民の厳しい生活という二つのテーマを、二組の父と息子の物語に仮託して重層的に描いている。コックルイ監督は「この映画は、父の愛を渇望する息子と、息子を理解しようともがく父親の物語。自分の移民としての経験や思いを注ぎ込んだ作品を観客に見てほしかった」と語る。

 主演のアンソニー・ウォンは「ここまでとことん自分勝手で無責任な偏屈野郎の役は初めてだ」と言いながら、喜んで演じたという。そんなウォンが発する「俺はより良い場所に住みたいだけなんだ」「俺はいい人になりたいだけなんだ」というせりふが、不器用なバクヤッの正直な気持ちを伝えて心に残る。ウォンの風貌がちょっと勝新太郎に似ていると思った。

 ちなみに、劇中に登場する、中国・清代の詩人・袁枚(えんばい)の「白日不到處、青春恰自來」という漢詩が、本作のタイトルの基になっているようだが、2人の主人公、白日と青春とのダブルミーニングになっているのも面白い。

 本作は、コックルイ監督の長編デビュー作ということで、多少、粗削りなところはあるが、静かなパワーを感じさせる作品に仕上がっている。

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ノーマン・ジュイソンの映画 その6『ザ・ハリケーン』

2024-01-24 17:01:45 | 映画いろいろ

『ザ・ハリケーン』(99)(2006.9.5.)

 帰宅したらデンゼル・ワシントン主演の『ザ・ハリケーン』をテレビでやっていた。無実の罪で投獄された黒人ボクサーが、知り合った黒人少年や弁護団と協力して無罪を勝ち取るまでの闘いが真摯に描かれた力作で実話の映画化。

 ワシントンの熱演に加えて、ジョン・ハンナ、デビッド・ペイマー、ハリス・ユーリン、ダン・ヘダヤなど、結構渋い脇役を揃えていると感心していたら、クライマックスでは判事役でロッド・スタイガーも登場してきた。

 ノーマン・ジュイソン監督はカナダ出身だから、こうしたカナダを舞台にした人種問題が撮りたかったのだろうし、そこにスタイガーを出すことで、黒人問題を描いた自作の『夜の大捜査線』(67)を、観客に意識させたかったのかもしれないと勝手に解釈した。


ボクシング映画
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/5b4913b2abfae24ae7fccf8a21622a43

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ノーマン・ジュイソンの映画 その5『僕のボーガス』

2024-01-24 07:55:31 | 映画いろいろ

『僕のボーガス』(96)(1998.9.12..WOWOW)

 『天使にラブ・ソングを』(92)に続いて、これまた何の気なしにつけたテレビに、タイミングよく映ったウーピー・ゴールドバーグ主演作。ニセ親子が、真の親子へと変化していく様子を描いたハート・ウォームものだが、実はこの映画の主役は、子どもにしか見えない想像上の仲間ボーガスであり、演じるジェラール・ドパルデューの不器用な演技が、この映画の味であるルーズさと意外にマッチしていて、独特の魅力を感じさせた。

 いわば、不透明なボーガスの存在を通して、家庭回帰ドラマ内に子どもの精神的自立を描いた映画だったのだ。監督のノーマン・ジュイソンの演出には少々老いを感じたが、全体の出来は平均点内に収まっていた。

 

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ノーマン・ジュイソンの映画 その4『オンリー・ユー』

2024-01-24 07:13:11 | 映画いろいろ

『オンリー・ユー』(94)(1997.7.22.WOWOW)

 この映画は、マリサ・トメイ演じる主人公と義姉役のボニー・ハント(最近注目の助演女優)のロマンスが並行して描かれるので、若者の偶然の恋を描いた『ローマの休日』(53)と中年の不倫を描いた『旅情』(55)を足して二で割ったような話だなあと思いながら見ていたが、もっと似ていたのは、ローレンス・カスダンの『フレンチ・キス』(95)だった。

 あちらはパリ、こちらはローマ。どちらもアメリカ人が夢見る外国での甘いロマンスが描かれる。おまけにこの映画は、占いで名前が出た見ず知らずの男を追い駆けて、はるばるローマまで…というのだから、乙女チックにも念が入っている。となると『めぐり逢えたら』(93)的なところもあるか。さすがは女性脚本家(ダイアナ・ドレイク)である。

 ところが、この一見ばかばかしい非現実的な話を、ベテラン監督のノーマン・ジュイソンがそつなくまとめているものだから、半ばあきれながらも、恋愛に恵まれぬ中年男としては、見事に術中にはまってしまった。 

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ノーマン・ジュイソンの映画 その3『月の輝く夜に』

2024-01-24 00:10:29 | 映画いろいろ

『月の輝く夜に』(87)(1988.4.15.日比谷映画)

移民の国アメリカ

 ニューヨークを舞台に、イタリア系アメリカ人の未亡人と、彼女に求愛する2人の兄弟の姿を描いたラブ・コメディ。

 この映画を見始めた時は、この手の話を実にうまく撮るウディ・アレンのことが絶えず頭に浮かんできて、アレンならもっとうまく撮るのでは…という気がしたのだが、映画が進むに連れて、この映画が描いているのは、一見ウディ・アレン風だが、実は似て非なるものだと気付いてきた。

 アレンの映画はとてもユダヤ色が濃いのだが、この映画のベースにあるのはイタリア系アメリカ人の姿であって、描かれる人たちは底抜けに明るくて、家族のつながりが深く、キリスト教の影響が強い。

 つまり、アレンの映画よりもコッポラが描いた『ゴッドファーザー』(72)の方に近いのだ。そして『ゴッドファーザー』がイタリア系アメリカ人の暗の姿を描いていたとすれば、この映画は明の部分を描いたとも言えよう。

 監督のノーマン・ジュイソンは、ニューシネマ時代からの数少ない生き残りの一人であり、過去に『屋根の上のバイオリン弾き』(71)『ジーザス・クライスト・スーパースター』(73)といったミュージカルも撮っているが、この映画はオペラを意識して作っている。改めて、その多才さを知らされた思いがして、健在ぶりがうれしく感じられた。

 それにしても、こうした映画を見るたびに、アメリカが移民の国であり、他民族国家であることを思い知らされる。それ故、さまざまな人種問題が根強く残っているのも仕方がないのかと思う半面、国民には幅広さがあり、それがいい意味で、こうした映画にも反映されているのだろうと思った。

 主演のシェールは、歌手からの転身にしてはいい味を出していたが、最近のティナ・ターナーの女優転向発言も含めて、果たして女優とはそんなに簡単になれる、おいしい仕事なのかという思いがするのは否めない。それとも、一芸に秀でた人はやはりものが違うのだろか。

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