田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『玄海つれづれ節』八代亜紀

2024-01-10 12:54:20 | 映画いろいろ

 八代亜紀といえば、代名詞的に語られる「舟唄」「雨の慕情」(作詞・阿久悠、作曲・浜圭介)よりも、個人的には、初期の「なみだ恋」(作詞・悠木圭子、作曲・鈴木淳)「もう一度逢いたい」(作詞・山口洋子、作曲・野崎真一)「おんな港町」(作詞・二条冬詩夫、作曲・伊藤雪彦)の方が好きだ。

 映画関連では、『駅 STATION』(81)で、高倉健と倍賞千恵子がテレビから流れる「舟唄」に聴き入るシーンがあったり、『男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 特別篇』(97)では、渥美清に代わって主題歌を歌ったりもしたが、トラック野郎たちに人気があったことから出演した『トラック野郎・度胸一番星』(77)以外は、映画にはほとんど出ていない。唯一といっても過言ではないのは、吉永小百合、風間杜夫とのトリプル主演という触れ込みだったこの映画。


『玄海つれづれ節』(86)(1986.1.10.虎ノ門ホール)

 福岡県北九州市を舞台に、夫に蒸発された女性が仲間に助けられながら自立していく姿を描く。監督は出目昌伸。脚本は笠原和夫、下飯坂菊馬、兵頭剛。吉田兼好の『徒然草』の第三八段が基になっている。

 ここのところ耐える女を演じてきた吉永小百合が、久しぶりに明るくコミカルな役に挑み、半ば成功している。だが、この映画の見どころは、毎度うまい樹木希林、駄目男を演じさせたら絶品の風間杜夫と岡田裕介、実生活をほうふつとさせる伏見扇太郎、意外に好演を見せる八代亜紀、さすがの三船敏郎、達者な子役、東映の面目躍如の本物みたいなやくざたち、そして役得の斉藤モズ介という無名のおっさん(元プロデューサーなのだとか)…といった、吉永を囲む人たちの魅力にあるといってはちと酷かな。

 また、映画館が重要な大道具として使われ、あの『ラスト・ショー』(71)的なものまで感じさせてくれるなど、正直なところ、何の期待も持たずに見たせいか、ちょっと得をしたようないい気分になった。

 ただ、ストーリー的には、多くのことを詰め込み過ぎて損をしている気もする。もっと街の人たちとの仲間意識や連帯感が出ていてもよかったと思うし、あの見え見えのラストシーンを持ってくるなら、その前にもう一工夫ほしかった気がする。多分、影響を受けていると思われる『スティング』(73)のように。と、少々の不満は残るが、久しぶりにからっとした邦画に触れられた気がしてうれしかった。

【今の一言】八代亜紀は華のある人だったから、もっと映画に出てもよかった気がする。改めて当時の自分の記事を読むと、この映画のことは結構気に入っていたようだ。久しぶりに見直してみようかな。

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渥美清の「泣いてたまるか」

2024-01-10 09:26:15 | テレビ

 『拝啓天皇陛下様』(63)での渥美清と左幸子の共演の思い出から思い出したドラマがあった。渥美が毎回違う役を演じた1話完結のドラマシリーズ「泣いてたまるか」(67~68)である。「空が泣いたら雨になる~」と渥美が歌う主題歌(作詞:良池まもる、作曲:木下忠司)も懐かしい。

木下忠司
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a99c1910fdaabe5c7083e90d30a02698


 調べてみると、2人が共演した回は何本かあったが、見たことがあったのは、第67回の「雪の降る街に」(監督・井上博、脚本・灘千造)だった。

 刑事の時実一平(渥美)とその妻(左)は、生活に行き詰った犯罪者の妻たちの赤ん坊を引き取り、実子として育ててきた。子どもたち(渡辺篤史、菊容子ほか)は無事に成長したが、一平は死亡した強盗犯の妻(夏圭子)のおなかの中の子どものことが気になって仕方がない。という結構ハードな設定で、いろいろと問題提起をしながらも、最後は“クリスマスの奇跡話”で終わる心地よさがあった。ここでも左の笑顔に救われる思いがした。


 とても良かったので、何本か見直してみた。 

 第28回「ある結婚」(監督・今井正、脚本・光畑碩郎)

  母親(浦辺粂子)と二人暮らしの靴職人の矢島真吉(渥美)は、見合いをしても振られてばかり。ある日、友人(小沢昭一)の結婚式で孤独な独身OL(久我美子)と知り合う。2人は互いに引かれ合うが…。という、アーネスト・ボーグナインが主演した『マーティ』(55)を思い起こさせるような内容。


 第76回「おゝ怪獣日本一」(監督・佐伯孚治、脚本・稲垣俊)。

 日本一の怪獣役者の田中豊作(渥美)は、妻に先立たれ、男で一つで娘(田中美恵子)を育ててきた。だが、娘が初潮を迎え、担任教師(片山真由美)の助言もあり、母親の必要性を感じた豊作は、行きつけの小料理屋の女将(河内桃子)との再婚を考えるが…。このシリーズは、毎回違う役をやる渥美の芸達者ぶりが堪能できるが、それに加えて、渥美の相手役を務める女優たちが素晴らしい。蛇足だが、豊作は「ウルトラマン」のキーラの着ぐるみに入っている。


 第61回「日本で一番もてない男」(監督・高橋繁男、脚本・橋田壽賀子)



https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/fd48040596c8f8369e87aacd6bab7ccf
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/a45a8b38878602d6858fab48483df918


 「泣いてたまるか」は、坂上二郎主演で映画化(71)され、ドラマシリーズとしては西田敏行主演でリブート(86~87)された。

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