田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『Arc アーク』

2021-06-02 07:30:38 | 新作映画を見てみた

永遠の若さを得ることは果たして幸せなのか?

 SF作家ケン・リュウの短編小説「円弧(アーク)」を、石川慶監督が芳根京子主演で映画化。芳根が17歳から89歳までを演じる。と言っても、見た目は若いままなので、髪形や服装の変化、あるいは言葉遣いやしぐさの違いでそれを表現するという難役をこなしている。倍賞千恵子、風吹ジュン、小林薫らが脇を固める。

 遠くない未来。17歳で、生まれたばかりの息子と別れ、放浪生活を送っていたリナ(芳根)は、19歳の時にエマ(寺島しのぶ)と出会い、遺体を生きていた姿のまま保存できるように施術(プラスティネーション)をする「ボディワークス」の仕事に就く。

 一方、エマの弟で天才科学者の天音(岡田将生)は、姉と対立しながら、ボディワークスの技術を発展させた不老不死の研究を進めていた。30歳になったリナは、夫となった天音と共に不老不死の処置を受け、人類史上初めて永遠の命を得た女性となるが…。

 いきなり前衛的なダンスのシーンで始まり、どうなることかと思えば、ちゃんと肉体の動きが重要な要因となるボディワークスにつながる。あるいは、この手の映画は、過去をモノクロやセピアで撮ることが多いが、それとは逆に、後半の“未来”のシーンををモノクロで撮るなど、石川監督はいろいろと工夫を凝らしているが、カメラ(画面)を不必要に揺らすのだけは勘弁してほしかった。危うく手振れ(映像)酔いをしそうになった。まあ、それを除けば、哲学的な要素も持ったSF(少し不思議)な話として、非常に興味深いものがあった。

 また、若さを保ったままの長寿=不老化という点で、奇跡的な出来事から29歳のまま年を取らなくなったヒロイン(ブレイク・ライブリー)がたどる数奇な人生を描いた『アデライン、100年目の恋』(15)のことを思い出した。

 不老不死や若さの継続は、人類にとっては永遠の夢であり、テーマでもある。それについて、この映画と『アデライン~』では、アプローチの仕方は異なるが、どちらも、最後に、永遠の若さを得ることは果たして幸せなのか? と問い掛けてくるところは同じだった。

『アデライン、100年目の恋』
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/c47d5b6920f952f249124b662ee4c0d5

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『1秒先の彼女』

2021-06-01 07:44:42 | 新作映画を見てみた

記憶と時間にまつわる新機軸のラブコメディ

 郵便局で働くシャオチー(リー・ペイユー)は、仕事も恋もパッとしないアラサー女子。何をするにもワンテンポ早い彼女は、写真撮影では必ず目をつむってしまい、映画を見て笑うタイミングも人より早い。

 ある日シャオチーは、ハンサムなダンス講師とバレンタインデーにデートの約束をするが、目覚めるとなぜか翌日で、バレンタインが消えていた…。

 その謎の鍵を握るのは、毎日郵便局にやってくる、常にワンテンポ遅いバス運転手のグアタイ(リウ・グァンティン)らしい。そして、シャオチーは街中の写真店で、なぜか“目を見開いている”、見覚えのない自分の写真を見付ける。

 映画技法の、同じシーンの別撮りや、テーク~(撮り直し)を利用して、何事も人よりワンテンポ早い女の消えたバレンタインをめぐる物語と、ワンテンポ遅い男によるアナザーストーリーを展開させるという、記憶と時間にまつわるちょっとシュールな新機軸のラブコメディ。ファニーフェイスのリー・ペイユーが不思議な魅力を発散する。

 例えば、ハンサムなダンス講師からデートに誘われ、有頂天になったシャオチーが「30年間積み立ててきた運が一気に爆発した感じ。幸せが1台のトラックのように、自分に向かって突っ込んできた」と語るセリフ。

 あるいは、ラジオのDJが語る、「人生はたくさんの記憶のパズル。恋が人生を創造する。お互いが、相手の記憶に刻まれていたら最高だ。でも、君の大切な記憶は、相手にとっては無意味なものかもしれない。それが人生」という、この映画そのものを言い当てたようなセリフに代表されるように、なかなか脚本がしゃれている。

 また、台湾では、年2回バレンタインデーがあり、2月14日よりも、旧暦の7月7日の「七夕情人節(チャイニーズバレンタインデー)」の方が重要なイベントなのだという。だからこの映画の舞台は、バレンタインと言いながら、冬ではなく夏なのだ。そこも面白い。

 監督は“台湾ニューシネマの異端児”と言われたチェン・ユーシュン。欧米のこの手の映画のように洗練されてはいないが、粗削りなところがかえって新鮮に映る。

 エンドクレジットのバックに、映画の内容と合致するビージーズの「I STAETED A JOKE=ジョーク」を流すところなどにもセンスの良さをうかがわせる。そのうち、ハリウッドや日本でリメークされるかもしれないと思った。

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「BSシネマ」『愛情物語』

2021-06-01 07:13:02 | ブラウン管の映画館

『愛情物語』(55)

“幻の女優”ビクトリア・ショウ
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/36ca302dd0bf63858ccca378480f1675

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