a letter from Nobidome Raum TEE-BLOG

東京演劇アンサンブルの制作者が、見る、聞く、感じたことを書いています。その他、旅公演や、東京公演情報、稽古場情報など。

役者の仕事(アンサンブルの若いメンバーたちへ)

2018-03-21 20:51:55 | 東京公演
ずいぶん久しぶりに役者復活となりました、タイトルロールのビーダーマンを演じます、公家義徳です。

ビーダーマイヤーという言葉があります。19世紀前半(1815年から48年まで)のドイツやオーストリアを中心に、身近で日常的なモノに目を向けようとして生まれた市民文化の形態の総称ということだそうですが、そこからビーダーマイヤーはいわゆる”小市民”や”俗物”を表す言葉となり、次第に政治や国際情勢などには関心のない人々をも意味する言葉となっていったようです。


わたくしビーダーマンは葉巻とワインを優雅に嗜む居酒屋のヒーロー。

心臓を病んだ妻を心から愛する、増毛剤(インチキはげ薬)会社の社長です。仕事の上では非常に冷酷な面もありますが、その反面、彼はかなりのお人好しでもあります。
この物語はそんな彼が国家転覆を企む革命家…愉快犯?(笑)放火犯たちに目をつけられ…ひどい目にあわされる、というお話なのですが、さすがドイツ語圏では鉄板の人気作品、中身は一筋縄ではいきません。


よい脚本は本を読んですべてがわかるようには書かれていないものです。人間があってこその演劇です。そこで役者は自分の身体と感情をフルに使いながら、相手役とのやりとり(力学関係)を試しあうことによって、テキストの表面には描かれていないけれどもとても大切ななにかを、毎日の稽古場でひとつずつ丁寧に探り出していきます。わたしと役との距離の違いを発見していくことがまずは脚本解読のとても重要な鍵となります。といってもすべては誤読のまま…役を演じる人間が違えばその役の印象はずいぶん変わります。もちろん、あえて誤読を行うことで作品を創作する方法もあります。


ぼくたちは毎日の稽古で、もし、ある状況の中に人間が放り込まれたらどうなってしまうのか、そのような実験を繰り返し行います。そのためにはたくさんの知識や想像力、そして役者としての十分な経験が必要になりますが、なにより常に役者に突きつけられるのは“じぶん”とは一体何者であるのか?ということです。わたしという存在があるがゆえに、そのわたしが邪魔をして、白紙の状態から物語を解読することなど出来なくなってしまっているからです。


ぼく達は日常の中でもさまざまな演技をしています。ぼく達は目の前にいる相手に合わせてたくさんの顔を使いこなしています。わたしはひとりだけれど私の顔(こころ)はひとつではない…。家族と一緒のとき、会社の上司に対して、仲のいい友達との飲み会で…これらはまるで違う顔。あたりまえのことです。


役者が舞台上で自由に役を演じられるようになるためには、自由に呼吸をし、自由に考えることができる普段通りのじぶん、と非常に似た状態のじぶん=役、を創りだす必要があるのだと思います。”わたし”と“役”との距離があまりにもかけ離れてしまっていてはその場の状況に合わせて自由に考えることなどとてもできません。

脚本に描かれた人物を表面的にだけ解釈して、一面的な角度から見た人間を描こうとすれば間違いなく芝居のどこかに歪みが生じてしまいます。だからあらゆることを試しながら、役と自分との距離を探っていく。感情をズラすトレーニングも必要となります。毎日の稽古の中でじぶんの感情の出処とその可能性を探っていき、舞台上のいかなる瞬間でもじぶん自身のほんとうの心を動かせるような努力をしていくのです。稽古場では時には非常に苦しい時間を過ごすこともあります。演出家や相手役との関係が思うようにいかずに疑心暗鬼の日々を過ごすことだってあります。でも最終的にはそこに集うメンバーといまできる限りのものを追及し、現在のわたしを舞台上に表現していくのです。


演劇は正しさや答えの追求ではなく、その時代に生きる様々な人間の可能性と未来を探る行為なのだとぼくは思います(でなければシェイクスピア劇が現代に蘇ることはないのです)。いつだって役者はじぶん自身と向き合わなければなりません。じぶん自身の心の中に、敵も味方も存在するからです。役者は舞台上で常に何かの出来事に巻き込まれていきますので、いつだって真実の感情が揺さぶられることを求められます。役者は大勢の観客に見られていることを知りながら、心から悲しいシーンがあれば毎日涙も流しますし、その場で怒りが頂点に達してしまうことだってあるのです。それらの様々な出来事を毎日経験しながら、役者はじぶんならではの演技を舞台上で表現していかなければなりません。


ああ、だからもう、役者は大変!!


……だからこそ、演劇には尽きぬ魅力があるのだとは思いますが…ほんとうに、たいへん…なのです。
だからみなさん、心して芝居に取り組んでくださいね。


『ビーダーマンと放火犯たち』主人公のぼくはずいぶん精神的に追い込まれていくのですが、この物語はまったくのコメディーです。舞台上に登場すればいちいち面白くなければなりません…それが使命なのです。ということで、全身全霊を注ぎ込み、このバカバカしくも恐ろしい作品をお届けできるよう毎日の稽古に励んできました。稽古場での様々な出来事などを思い出しながら、ぜひ繰り返しこの文章を読んでみてください。

観客のみなさまはどうぞお楽しみに、芝居小屋へと足をお運びください。

よろしくお願いいたします。



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●2018年3月23日(金)〜4月1日(日)
●ブレヒトの芝居小屋(西武新宿線・武蔵関)
●東京演劇アンサンブル公演
●作=マックス・フリッシュ 訳・ドラマトゥルク=松鵜功記 演出=小森明子



3/23金 19
 24土 14
 25日 14
 26月 19
 27火 19☆
 28水 19☆
 29木 19
 30金 19
 31土 14
4/ 1日 14

☆ Low Price Day 2500円

放火による火事が頻発しているある町
行商人が家にあがり込んで火を放ち
街の広範囲を焼き尽くしている
いつも同じ手口
それなのに止められない…
連日の報道に怯えながら
人びとは消防隊を組織した
さて、ビーダーマン氏は
毛生え薬で儲けた会社社長で
共同経営者を解雇したばかり
ある雨の晩
そのビーダーマン宅に
元レスラーという
ホームレスが訪ねて来る…

消防隊のコーラスとともにおくる
エンターテインメント・ブラック・コメディ
スイスを代表する作家
マックス・フリッシュの代表作

★チケット申し込み★
thhp://tee.co.jp/wordpress_3/?page_id=82
もし応援している役者がいらっしゃる場合はお手数ですが、直接劇団までお電話していただき、その役者の名前もお伝えください。
(03-3920-5232)

音楽 国広和毅
舞台美術 入江龍太
照明 真壁知恵子
音響 島猛
映像 三木元太
振付 町田聡子
衣裳 仙石貴久江・永野愛理
舞台監督 浅井純彦
制作  志賀澤子・辻尾隆子

●キャスト
ビーダマン         公家義徳

バベッテ          洪美玉

アナ            山﨑智子

シュミッツ         小田勇輔

アイゼンリング       松下重人

警官            大橋隆一郎

学者            篠原祐哉

クネヒトリング       坂本勇樹

クネヒトリング夫人     志賀澤子

コロスのリーダー     原口久美子
              竹口範顕
              永野愛理

コロス          雨宮大夢
              上條珠理
              坂本勇樹
              篠澤寿樹
              関英雄
              仙石貴久江
              永濱渉
              奈須弘子
              町田聡子
              真野季節
              三木元太
              和田響き

ブレヒトの芝居小屋 西武新宿線「武蔵関駅」北口より徒歩6分