空野雑報

ソマリア中心のアフリカニュース翻訳・紹介がメイン(だった)。南アジア関係ニュースも時折。なお青字は引用。

「ハンナ・アレント」とメタテシス

2017-12-27 11:23:41 | ノート




 そんなわけでもう直っているのである:

Webronza ハンナ・アーレントに学び、「核」の未来を考える 人類の破滅を避けるため、「思考停止」からの脱却を 2017年12月25日



 ということで、話題となった記事の内容は気にしないことにする。

 興味深いこと1点、まずはこの音位転換(メタテシス)である。

 この話題のひとは、アレントのことを読んだり聞いたりしたことがなかったのだろう。映画を見て、ようやく意識に入ってきた。しかし主に耳から。そこで、ふだんたくさん聞いている英語・フランス語風の「アンナ」から影響をうけて「ハンナ」が「アンナ」に変化。飛んでしまったhの音が行き場を探して落ち着いたところが姓のほうの語頭(名の語頭から飛んだのは、”たぶん、なんか語頭”という脳の中の無意識が残っていたため?)。

 この変化に影響を与えるような「ハーレント」という有力語形はあったかなーと軽く検索(約4700件ほどとのこと)すると、トップはむしろハンナ・アーレント。をい。

 今日の段階だと、第六位に「アンナ・ハーレントに学び、「核」の未来を考える - 鈴木達治郎|WEBRONZA webronza.asahi.com/science/articles/2017122100004.html」がある。うむ。

 その下のほう(1ページ目、7-10位)に:

power-vision’s blog アンナ・ハーレント 2015-04-08

 ここは表題に「アンナ・ハーレント」とあるが、「話は変わりますが、福本さんは「ハンナ・アーレント」という映画はご覧になりましたか?」という本文(引用文)から以下、全て「ハンナ」。

カノミの部屋 アンナ・ハーレント 2014-04-25 17:49:27

 表題に「アンナ・ハーレント」とあるが、「昨年10月にシネマート六本木まで行って、映画「ハンナ・アーレント」を見た」と本文では「ハンナ」。

 しかし第10位の

うろうろ日記 2014-08-03  アンナ・ハーレント 2014-08-03

 ここに至って

見逃した「アンナ・ハーレント」が池袋新文芸坐で上映中。20代の頃よく文芸坐に通ったものだった
アンナは聡明だけではなく美しく魅力的な女性。演じた女優が素晴らしいこともあるが、実在のアンナもそうだったようだ
なお「アンナ・ハーレント」は、ビデオレンタル店で聞いたら、5日頃からDVDやCDがレンタル開始になるそうだ

 一貫して「アンナ」。google検索の第11位は:

colife 革命について 著:アンナ・ハーレント 2014-08-03

革命について ハンナ アレント... ロープライス ¥1,200 」をリンクに貼っておきながら、記事表題がコンタミ形。

 こうして、『あー、映画がアメリカ製だからそーなるんかなー』などという解釈は打ち砕かれる。この第11位の記事は、映画に直接関係していないようだ。

 第12位は:

晴走雨読 『アンナ・ハーレント』 2014-01-19

『アンナ・ハーレント』(マルガレーテ・フォン・トロッソ監督、脚本、ドイツ・ルクセンブルグ・フランス、2012年)

 …タイトルからして改変されているが、なぜか本文では「アーレント」表記だが。

 第13位:

市街・野 それぞれ草 映画ハンナ・ハーレント&初詣 2014-01-29

 記事タイトルに二重の誤謬があり、メタテシスの上にハイパーコレクションがかかって興味は二重である。

やがて1月18日、待っていた映画アンナ・ハーレントの封切りを、宮崎キネマ館で観ることが出来た
映画「アンナ・ハーレント」は、彼女に関する本を知らなかったら、タイトルだけでは、食指をそそられたかどうかは、わからない
やがて1月18日、待っていた映画アンナ・ハーレントの封切りを、宮崎キネマ館で観ることが出来た

 とあり、耳になじんだ英語・フランス語の語形に影響を受けているように見える。

宮崎市では、彼女の本「全体主義の起源」も「人間の条件」も「暴力について」その他も、宮崎市立図書館には収集されてない。その伝記もない。もちろん県立図書館のほうもないし、宮崎大学、宮崎公立大学にも電子カタログを「アンナ・ハーレント」で、横断検索をかけても、0であった

 …寧ろ優秀なんじゃないかその図書館たち。存在しないひとを存在しないひとと判定するんだから。まあ、あいまい検索ができない古いシステムだというかもしれないが、あんまり気を利かされすぎても実用性が落ちるような種類のシステムではあるかと思う。

 しかし

このような事実からしても、一般大衆の記憶に存在しているともかんがえられないわけである

 これが興味の第二点。ハンナ・アレントは、こうしたちょっと年配のひとたちの”一般常識”に入っていないものと見える。

 こうなると、『なんてことだ! こうした重要な人物の思想こそ、学校で教えておかねばならぬ! 学校はなにをやっているんだ! こんな不勉強な学校・教師に教えられる子供たちがかわいそうだ!』というふうにヒートアップする向きが大合唱を始めそうだが、さしあたり手元の山川出版社『倫理用語集』(アレだ、受験生が必ず使うヤツ)の2014年版、280ページには「ハンナ=アーレント」(そうです、赤字です―「テストに出すぞ、基本知識だ、出されて文句言うなよ」というサインといえます)とあり、しかも採用教科書は7編中7という記録。

 今の若者は(「倫理」選択者なら)一般常識として高校生で学んでますから安心してくださいという、ブラックな落ちになる。

 …同じページにレヴィナスもある。紙面構成上、レヴィナスのほうが扱いがいいな、これ。
 …これ、「これから世に出る若造相手に知識人っぷりたいなら、アレントもレヴィナスも知っておけよ」って意味に見えるなあ…。なお山川出版社さんのこの本は800円とのこと。並みの新書を買うより、はるかに有用でしょう、正直なところ。



 検索を進めると、さらに「ハーレント」語形が散見されるが、調査は軽くこの程度でいいだろう。
 もちろん、正しい「ハンナ・アーレント」語形のほうが圧倒的に多い。誤用から新語が発生する…ということもないはずだが、言語的な現象としてちょっと面白かったので、メモ。

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