![]() | ハゲタカ(上) (講談社文庫) |
真山 仁 | |
講談社 |
ハゲタカ(上) を読んだ。
真山仁氏の作品は、初めて読んだが金融ビジネス系の小説としては、
面白いのではないかと思う。
三葉銀行の不良債権のバルクセールを買い取る場面が冒頭で出てきた
時は、あまりその手の債権処理の言葉にイメージがわかず少しトーンダウン
したが、読み進めるうちに興味が増した。
ファンド会社の鷲津という登場人物のストーリーなかでのスケールの大きさ
力量というものは、扱う題材が、不良債権なのであまりピンとこないが
それなりの取引での修羅場、山場は描かれていて、その場面のイメージは
描き易い描写なので、面白みはある。
サイドストーリーというか複線としては、明治からの日光の老舗ホテル
の長女貴子と三葉銀行を退職し地方のスーパーの専務として企業の再生を
図る芝野の下巻での鷲津とのかかわりが、この物語の盛り上げに一役買いそう
な予感します。
それにしても銀行の不良債権処理とは、不良債権の実態を正確に把握できな
かった、メインバンクのどんぶり経営と、それを放置した国の責任という
ものは、あらためて重いなと感じさせる。不良債権化された債権は、ファンド
会社に買い叩かれ、銀行が手放す。銀行は不良債権と縁が切れ、特損で赤字
の膨らむリスクから解放され、その補填は、公的資金と呼ばれる税金。
預金者は、元本保護のもと、金利は二の次に預金を維持する。そこに託けて
融資するほうには、それなりの金利で貸付、貸しはがしを繰り返す。
ファンド会社は、買い叩いた不良債権のうち、一部の債権で高収益を得、
売れない債権の補填充当を目指す。ハイリスク、ハイリターンのビジネス。
その影響で、従来の返済計画で返金していたまじめな債務者も返済方法が
変わったり、債務者の担保を売られたりと修羅場的なことがたくさんあった
のではないかと推測が走る。
この物語の債務者の不良債権化させるきっかけとしては、老舗ホテル、
スーパーのオーナーの家族経営、個人のなあなあの経営、長く同じ
経営者のもと信頼を得た部下、支配人などから不正な税務処理、個人
保障などで銀行からの融資を得るような勝手なお金のお膳立てをして
当人は逃げるなど、バブル崩壊後のグレーな面を描いている。
でもこの不良債権に纏わる都市銀行の中枢の人物も同様な状況である。
不良債権は、健全な担保資産をしない、企業価値を担保できない現実
の織り交ぜとその反省が二度と不良債権化させない大事なことと痛感する。
いずれにしても筆者が作品のなかで訴えたいものって、企業経営の
有り方だと思う。これは、都市銀行、地方都市のホテルとそれぞれ
で業態は違うが、基本的にはその階層人物がどこまでリスクを背負って
責任もって対処できるかというところは、どの銀行であろうと同じ課題
を持っていると思う。
こういう小説を読むと、日々の営業活動やビジネスというものが
金が絡むことで大きく様変わりする可能性があるということを
戒められるような気分になる。