藤枝市岡部町岡部に今も残る、東海道岡部宿を代表する大旅籠のひとつ「大旅籠柏屋」。 江戸時代に建てられた建物は、それ自体が資料館ともいえるもので国登録文化財に指定されています。
建物内には、店の間、台所、1、2階の客室などがあり、部分的な改修を重ねながらも、180余年にわたり往時のたたずまいを伝えてきました。
期待に胸を膨らませて玄関を入ったところで、係りの方に「今日は休館日です」と言われ、二人とも茫然自失! たまたまこの日はステンドグラスの作品展示の為に、玄関を開けていたとか・・本当に言葉をなくすくらいのショックでした。
ところが私たちが遠方から来たとわかると、中を見るだけならと館内に入れて下さったのです。 そのときの驚きと喜びは何年たっても忘れがたく、思い出すと胸が熱くなります。
当時の旅籠の様子が再現された客室で、旅の疲れを癒す等身大の人形たち。女中さん相手に旅先でのあれこれを話す旅人、そんな話に時折相槌を打ち、酌をする女子衆。 賑やかな笑い声が聞こえてきそうな場面ですが、今の私たちは、とにかくひっそりと、静かに・・(決して強要された訳ではありません)
街道の様子を再現したジオラマは、一目で当時の様子が見て取れ、とても興味深い展示。 旅籠の様子から道を急ぐ旅人まで。男も女も厳重な旅の拵えで、日が落ちないうちに難所とされる宇津峠を越えようというのか、急ぎ足。
じっくりと見れば、どれもこれも興味深い歴史的な資料ばかりですが、何しろご好意だけで見学させていただいている身。なるべく時間をかけないように、静かに急いで・・それでも思わず足を止めて見入ってしまう資料が並んでいます。
おそらく館長さんのご好意でしょう。館内には電気がつけられ、見学に不自由はありません。
特別な客室だったと推測される重厚な部屋。
重ねた年輪の手触りまでもが伝わってきそうな、巨大な松の水墨画。
往時を思わせる高い天井には太い梁がめぐらされ、さすがはと納得する「大旅籠」の貫禄。
まるで精巧な幾何学模様を見ているような梁の様子、上から見下ろす事も出来ます。
土間に設けられた井戸。
手入れの行き届いた和風庭園が美しい離れも、外観だけですがこうして見ることができました。
土間を抜けて裏手には江戸期と明治の二つの土蔵があり、ギャラリーなどに利用されています。顔出し看板の二人は『弥次さん・喜多さん』。 実在する人物では有りませんが、東海道といえば「膝栗毛」。
中学生の頃だったと記憶しているのですが、『十返舎一九』の「東海道中膝栗毛」。その軽妙な語り口が面白くて、図書館の貸し出しでは飽き足らず、お小遣いを貯めて買い求めたものです。
かの有名なお二人は玄関を入った土間にもいて、なんと一緒の記念写真まで撮っていただきました。 こうして画像を見返すとあの日の思いがけない親切が心に染み入り、胸が温かくなります。
今更ですがあのときのお心遣いと優しいお申し出、本当に、本当に感謝に耐えません。 こんな小さなブログの中ですが、改めて「ありがとうございました!! 」
訪問日:2011年11月14日