明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(866)「水俣と福島から国の責任を問う」・・・中地重晴さん講演会のお知らせ(6月21日)

2014年06月08日 17時00分00秒 | 明日に向けて(801)~(900)

守田です。(20140608 17:00)

今回も『美味しんぼ』応援記事の続き、第9弾ですが、主軸は非常に重要な講演会のお知らせです。6月21日に京都大学で行われる中地重晴さんの講演会です。
なぜこれが重要なのかと言うと、中地さんは『美味しんぼ』へのバッシングの発端となった「福島での鼻血」に関する疫学的な調査をされ、他ならぬ双葉町で鼻血を経験した人が、被曝のない他の地域よりも有意に多いことを証明された方だからです。
この研究は中地さん一人によってなされたのではなく、岡山大学の津田敏孝さんを中心とし、まだ井戸川克隆さんが町長だったころの双葉町役場の協力のもとに行われたものでした。

重要なのは、ただ鼻血を出した人が有意に多かったという結論を得たことだけではありません。
中地さんや津田さんが、水俣病以来、連綿と続いてきたこの国の公害事件、環境汚染による健康被害の問題と取り組み続けるなかで、この国にはびこる「医学的判断における科学的誤り」とでも言うべきことを的確に捉え、その観点から疫学的な調査を進めらていることです。

「医学的判断における科学的な誤り」とは、何らかの健康被害を証明する場合、「被害が起きる科学的メカニズム」を明らかにせよというもので、それがなければ被害は実証されないとするものです。
実際には「メカニズム」の解明は往々にして困難です。というよりも、メカニズムというのは細胞レベルから分子レベル、DNAレベルと、より微小な世界にどこまでも遡っていきうるものであり、「メカニズムの未解明」は、被害認定を拒む口実にすら使われてきてしまっているのです。
しかし実際には被害、「メカニズム論」によってではなく、疫学的な調査によって立証可能です。そしてその段階で、対処が進められなければならないのです。

例えば放射線の低線量被曝と鼻血の関係でいっても、政府や原子力推進側は「低線量被曝で鼻血が出ることなどありえない」と強調していますが、実はこれは高線量被曝で鼻血が出るメカニズムを援用し、「高線量でないからありえない」と結論付けている非常にお粗末なものです。実は「低線量で鼻血が出ない」メカニズムの証明にもなっていない。
こういう場合に力を発揮するのが疫学的調査です。この調査の場合、予見(低線量下では鼻血は出ない。あるいは出る)を排し、まずは実際に鼻血が出たのか出なかったのか、それは被曝していない地域と比べて有意に高いのかどうかを見れば良いのです。
ところがこの単純で明快な作業を、今回、『美味しんぼ』をバッシングしている政府も、福島県も、たくさんの「科学者」たちも行っていない。ただ「出ないといったら出ない」という論理を振り回しているだけで、まったく非科学的です。

僕はこの点に関しては、今の日本で、急速に広げるべきものこと疫学的視点であるという立場から、次々と論稿を発表している岡山大学の津田敏秀さんの著書、『医学的根拠とは何か』を紹介する形で紹介したことがあります。
以下の記事です。分かりやすくまとめられたと思うので、ぜひ参考にしてください。

明日に向けて(847)メカニズム不明でも放射能による鼻血は証明できる!
・・・『美味しんぼ』応援第三弾!
http://blog.goo.ne.jp/tomorrow_2011/e/7ad11f46d1ea5963d6213c87c86d8456

さて今回、ご紹介している中地重晴さんも、この記事の中に登場しています。前述した双葉町などを対象とした疫学的調査の結果の一部を論文の中で発表してくださっていたので紹介したのです。
ところがこの調査。井戸川元町長を追い出した現在の双葉町が隠してしまっていました。その上で双葉町もまた『美味しんぼ』に抗議を行っていた。
しかしその論文があるところからついに全面的に公表されました。以下からPDFファイルの形で入手できるのでぜひご覧下さい。被曝に関する非常に重要なデータです。

双葉町等での疫学調査の「報告書」について
http://www.saflan.jp/info/870
(ここから「報告書 低レベル放射線被曝と自覚症状・疾病罹患の関連に関する疫学調査―調査対象地域3町での比較と双葉町住民内での比較―」がダウンロードできます。)

今回6月21日に行われる中地さんの講演会は、このように双葉町などの疫学的調査の成果が全面公開された後の初めてのものとなります。
なので僕自身も大変、期待しています。かけつけて一番前に陣取って、じっくり拝聴し、ノート化し、「明日に向けて」に紹介したいと思っています。
可能な方にはぜひご参加願えればと思います。

なぜかと言えば、こうした疫学を使った観点は、今後の放射能被害との国や東電を相手取った闘いで最も重要なものになるからです。
繰り返しますが、広島・長崎原爆や、水俣病をはじめ、この国の健康被害をめぐる争いでは、被害者の側が被害発症の「メカニズム」を明らかにせよと迫られてしまい、たくさんの「科学」の壁の前に呻吟せざるをえませんでした。
今も、私たちの国にはものすごいたくさんのヒバクシャが追加的に生まれてしまい、それぞれで健康被害に苦しめられたり怯えたりしているわけですが、しかし、放射線障害は証明できないというあきらめのようなものが支配してもいるかと思います。

例えば白血病をはじめ、がんになったり、心筋梗塞になったり、あるいは白内障など目の病気になったりとかしたときに、「それが放射能の影響かどうかは分からない」と被害者の側が被害を訴え、補償を得ることを諦めがちになってしまう。
そうではないのです。まず放射線被曝の害かどうかからすら私たちは一歩離れてよい。どうしてかというと原発からさまざまな放射性物質が飛び出し、汚染を受けた地域と、そうでない地域を比較して、有意に増えている健康被害はみんな原発事故の被害と認定できるからです。
被曝かどうかから離れて良いといったのは、放射性物質はそれぞれがまた何らかの化学物質で、その科学的性質が健康被害を引き起こしている可能性もあるからです。

繰り返しますが、その「メカニズム」を被害者は、少なくとも被害の発生の実証においては解き明かす必要などないのです。
まずは放射性物質、ないしは原発から飛び出したあらゆる化学物質に汚染されてない地域と比較して有意に増えているすべての症状を調べ上げれば良い。少なくともそのことで被害があることは実証できるのです。
大事なのは、民衆の側が「メカニズム論」に騙されてしまわないこと。そしてさまざまな形での疫学的な調査を要求することです。また可能な限り自分たちでもデータを残すことです。

そのためには、原爆の被爆者が本当に何もないところから、一歩一歩、被害の実相を暴きだして、被害を認定させ、権利を拡大してきた歴史に学ぶとともに、科学としての疫学を大いに学び、理解し、広めること、これが今後の何十年かをわたしたちが過ごしていく上で決定的に大事だと思うのです。これが大変な被曝をさせた加害者を「完全犯罪」として逃がしてしまわない上で一番のキモなのです。
今回、全面公開されたデータについての僕なりの分析も深めていきたいと思いますが、それをなしつつ、この重要なタイミングで行われる中地重晴さんの講演に耳を傾けたいと思います。

さてここからは少しプライベートは話になりますが、今回の講演会を主催するNPO法人市民環境研究所は、尊敬する元京都大学の石田紀郎先生が主催されている研究所です。
実は我が家から近いところにあるため、時折、この付近を歩いていて、ばったり石田先生に出くわすことがあります。
数日前も「おい、守田君」と後ろから呼び止めていただいて、路上で立ち話をしました。

そのとき21日にはぜひうかがうつもりであることをお伝えしたのですが、そうしたら実は中地先生、京都大学の学生さんだった時に、石田先生の研究室に出入りされていた方だったことをお聞きしました。
「他にも〇〇君とか××君とかな。僕のところにおった学生が今、環境のことでいい仕事をしていてくれるんや。みんなお金の稼げないところに就職して苦労したんやけどなあ」と石田先生。
「中地君は工学部で僕のところではなかったのに、工学部は面白くないといって、僕のところに来てくれたんや」とも嬉しそうに・・・。

僕が「先生。さすがですね。立派な方を次々育てられたんですねえ」と言ったら、石田先生いわく。「ちゃうねん。あいつらがな、勝手に育ちよってん」・・・。
「うー、かっこいい!」と思いました。「日本の知性、ここにあり」とか思ってしまいました!
石田先生、本当にそう思っておられるのでしょう。その上で、中地さんらの活躍を本当に嬉しそうに話されるのです。・・・ますます21日の講演会に行きたくなったことは言うまでもありません。

僕は思うのです。きっと中地さんも石田先生から人々の痛みに直に学ぶことを教わり、やがて水俣病問題で立ちあがった水俣病患者の方たちやそれに寄り添う無数の方たちと交流してその思いを引き継ぎながら英知を育まれてきたのだろうと。
そしてそれをこそ私たちはシェアし、一生懸命に学び、不十分であってもいいからなんとかその魂をつかんで、これからの人々に伝えて行く必要があると。
とくに、申し訳ないけれど、私たちの世代が被曝から守れなかった若者たち。遠い先の未来で、私たちのいない時空間で被害と立ち向かわないけばならないかも知れない。そのときのための英知を今、しっかりと把握し、僕なりにまとめ、後世に送っていきたいと思うのです。

みなさん。ぜひこの作業に参加してください。未来世代、今はまだ見ぬ世代が放射能汚染とたたかうためにも、今、私たちが疫学的な観点をしっかり身につけ、市民レベルに浸透させていく必要があります。
それこそが未来の人々を守る術です。だから、一緒に学びましょう!
以上から・・・主催者でもなんでもないのですが・・・中地さん講演会へのご参加を呼びかけます!以下、案内を貼り付けます。

*****

NPO法人市民環境研究所の総会と講演会

日時:2014年6月21日(土)
会場:京都大学農学部 W-106教室
左京区北白川追分町
入場無料 ぜひご参加を!

総会(会員のみ):午後1時~2時
講演会:午後2時~4時
講師:中地重晴さん(熊本学園大学教授)
演題:水俣と福島から国の責任を問う

中地重晴さん(熊本学園大学教授)
学生の頃から反公害運動に参加し、市民のために設立した「環境監視研究所」で多くの公害問題の科学調査を行い、2010年より熊本学園大学社会福祉学部教授に就任する。
瀬戸内海の豊島での有害産業廃棄物不法投棄事件の公害調停や、ダイオキシンやアスベストなどの汚染調査、PRTR制度の活用などで有害化学物質削減に取り組む。
一昨年秋に岡山大学の津田教授らとともに双葉町、丸森町の住民の自覚症状調査を実施し、福島原発事故による放射能汚染の住民への健康影響について明らかにした。
熊本での水俣病と福島での放射能汚染の現状を踏まえて、公害、環境問題に対する国の責任をきびしく問いかけている。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする