明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(1065)新規制基準の重大事故対策はあまりに非現実的でむしろ危険だ!

2015年04月06日 22時30分00秒 | 明日に向けて(1001~1100)

守田です。(20150406 22:30)

地方選挙たけなわです。僕も原発再稼働と集団的自衛権に基づく自衛隊の戦場派遣に反対する候補者を推しています。
とくに安倍政権は、この地方選が終わった後に、自衛隊の戦場派遣を進める法案を国会に出そうとしています。平和を守るため、原発ゼロを達成するため、ぜひ心ある候補者を勝たせましょう!

この間の連載で、高浜原発再稼働に向けて、原子力規制庁は新規制基準への合格内容を説明するために、3月3日から高浜町のケーブルテレビで流したビデオの批判を行ってきました。
今回はその続きとして「重大事故最終回をお届けします。全体で29分のビデオの17分10秒から24分40秒までの分です。

高浜発電所に関する原子力規制委員会の審査概要について
https://www.youtube.com/watch?v=azZk3mPHUrg

ここでは重大事故が起こった時の対応について書かれています。再三再四、指摘したようにこのように重大事故が起こった時を想定しているだけで、私たちは原発の再稼働を認めることはできません。
少なくとも、新規制基準が政府が言っているような「安全」を宣言したものではなく、設計段階での安全対策がすべて突破されたという意味での重大事故が起こりうることを想定したものであることをもっとはっきりと内外に示すべきです。
その上で、この国に住まう人々に、そんな危険までおかして、足りないわけでもない電気を作る必要があるのかどうかを問い、その上で合意ができたというのであれば、重大事故を想定した避難計画をしっかりと作るべきなのです。

実際には現時点でも再稼働反対の方が多数派なのですから、そこまで事実を明らかにすれば、それだけで再稼働への道は完全に閉ざされるに違いありません。
ぜひ多くのマスコミの方にもっとこの点をクローズアップした報道をして欲しいと思います。新規制基準は安全どころか重大事故の発生を認めるものであるという点をです。
その点を踏まえた上で、ではその重大事故対策はどうなのかと検討してみると、それ自身もかなり非現実的なものでしかないこと、そればかりかむしろ大きな危険性をはらむものである点を今回は明らかにしたいと思います。

ここで書かれているのは重大事故が発生し、従来の原子炉を「止める」核燃料を「冷やす」放射能を「閉じ込める」機能が壊れてしまったときの対策です。
まず「止める」対策では制御棒=原発のブレーキが入らない時を想定しています。その時に水の温度を強制的にあげて出力を下げることとホウ酸水を投入することが言われています。
しかしそもそももともとのブレーキ装置である制御棒が入らない何らかのトラブルが発生しているのです。それでどうしてこれら二つの対策がうまくいくと考えられるのでしょうか。これはもう希望的観測でしかありません。

「冷やす」対策でも海水ポンプが壊れたら、移動式の大容量ポンプで対応すると言っています。しかし福島ではこれはまったくうまく行かなかったのです。
いろいろな要因がありますが、実際の配管があまりに複雑になっており、しかも事故時でどこのバルブが正常でどこが壊れているかも分からない状態だったから実は水は原子炉に向かわずにほとんど違うところに行っていたのでした。
しかもほんの少しだけ注水されたためにかえって炉内に大量に水蒸気を発生させました。それが核燃料を被覆しているジルコニウムと化学反応を起こさせて激しく熱を出させました。
結局それが被覆に亀裂を生じさせて、冷却するどころか、かえって放射性物質の漏れ出しを促進してしまったのですが、その事実自身がなかなかわからなかった。水がほとんど入ってないことも数年経ってからやっと解析されたのでした。

さらに閉じ込める対策で極めて特徴的なのは「たとえば急激に原子炉の水が喪失し、水の補給が間に合わない場合、原子炉内の燃料が溶け」とメルトダウンそのものはもう起きても仕方がないという言い方になっています。
その上で、格納容器内に水をスプレーすることで、下部に水を溜め、圧力容器を突き破って落ちてくる核燃料を水で受け止めるとしています。これはおなじ加圧水型原発である川内原発でもとられている対策です。
しかし本当に水が溜まるのか。というのはもともと水を溜めるように設計したわけではないのでこういう「思いつき」には信頼性などないのです。水が溜まらなければ核燃料がコアコンクリート反応を起こし、激しく水蒸気を出しながらさらに潜ってしまう。
一方で水が溜まっているのなら、反対にかえって水と核燃料の接触で水蒸気爆発を起こす可能性ができてしまう。水をスプレーすることで危険性を増やしてしまうのです。そうならないというのは希望的観測でしかありません。

また水素対策も問題があります。沸騰水型とは違って加圧水型は内部に窒素が充填してないので水素濃度が高まると水素爆発を起こす可能性が沸騰水型よりもはるかに高いのですが、そのための水素を水に還元する装置を付けると言っています。
しかしこの装置は川内原発の場合だと1時間に処理できる水素量は1.2㎏に過ぎません。これに対して過酷事故では500キロから900キロもの水素が出てくる。このためにこんな装置をつけても焼け石に水にしかならない。
そのためもう一つ、イグナイタという水素燃焼装置がつけられています。水素濃度が上がる前に燃やしてしまおうと言うのです。

しかし他の装置が次々と壊れる過酷な状態にあるわけですから、この装置が正常作動しない場合も十分あり得る。水素が出始めたので作動しようとしたら動かない。
必死になって何度か作動を試みてやっと動くようになったときは水素が危険濃度を越えていて、作動したとたんに水蒸気爆発そのものが起こってしまう。そうなったらこの装置は自爆装置になってしまいます。
この場合、格納容器が内側から爆発を起こすのですから、考えられる最悪の被害が発生してしまいます。炉内の放射能のすべてが飛散してしまいかねないからです。閉じ込めるどころか内側から爆破で飛び散らせかねないのです。

このように結局、つけ刃的な重大事故=過酷事故対策は、まったく現実性がなく、むしろ水蒸気爆発や水素爆発の起爆装置になりかねないような新たな破局的危機を抱え込んだものでしかありません。
ブレーキが効かないときの応急対策といいつつ、むしろ絶望にむかってアクセルを強めかねないものでしかないのです。
繰り返し主張してきたように、過酷事故対策そのものが認められませんが、その中身を見ると重大事故時に、より破局を呼び寄せる可能性のあるものでしかなく、とうてい認められるものなどではないことをおさえておきたいと思います。

なお今回もポイントとなる視点は後藤政志さんより学びました。詳しくは以下をご覧下さい。
後藤政志(工学博士)川内原発が溶け落ちるとき~元・原子炉格納容器設計者が問う原発再稼働~
2015年1月31日 薩摩川内市まごころ文学館にて講演 1時間5分45秒から1時間23分40秒
https://www.youtube.com/watch?v=4QEwDJhrwFE&feature=youtu.be

これらを踏まえて、以下、関電の説明の文字起こしをお読み下さい。

*****

これまでは主に重大事故の発生を防ぐ審査について説明してきた。続いて重大事故の発生に備えて審査について発表する。

重大事故の発生をの防止を講じたとしてもそれでもなお重大事故は発生しうると考え、あらかじめ可能な限り対策をとり、万一発生した場合には事故の進展を食い止めるようにできるようにすることが大切だ。
その対策としては重大事故が発生してしまうような状態においても原子炉を確実に「止める」対策、核燃料が溶けることを防ぐために「冷やす」対策、または溶けた後においても「冷やす」対策。
放射性物質を格納容器内に「閉じ込める」対策というステップで考えていくことができる。
この「止める」「冷やす」「閉じ込める」というキーワードに基づいて説明したい。

「止める」対策について
原子炉に異常が起きたときには制御棒を入れて原子炉を止める必要がある。しかし制御棒が入らない場合は原子炉の出力を下げられず大きな事故につながる恐れがある。
これまでも制御棒の挿入については厳しく審査してきた。それでもなお新規制基準では制御棒が入らない、入れられない場合も想定して原子炉を止める対策を求めている。
例えば原子炉の水の温度を強制的にあげて出力をさげるという原子炉の性質を利用した対策や原子炉出力を下げる効果のあるホウ酸水を入れる対策を確認した。

「冷やす」対策について
新規制基準では既存の対策が機能しない場合でも炉心への注水と減圧を行うとともに、原子炉の熱の逃がし場を確保することにより原子炉内を冷やし、炉心を損傷させないことを求めている。
高浜発電所3号炉、4号炉では例えば余熱除去ポンプが壊れた場合に現場でも操作可能な弁をあけるとともに、追加した注水ポンプを活用して炉心への注水を行うことになっている。
海水ポンプが壊れた場合に、移動式の大容量ポンプを用いて海水を冷却器に送り込み最終的に炉内の熱を海に逃がす手段を確保している。
原子力規制委員会の審査ではこのように既存の対策が機能しなくても原子炉を冷やすことができるかどうかについて審査した。

「閉じ込める」対策について
こうした「止める」「冷やす」ための対策を講じていても、さらに燃料の損傷に至るような事態が避けられない場合を想定し放射性物質を閉じ込める対策を求めている。
たとえば急激に原子炉の水が喪失し、水の補給が間に合わない場合、原子炉内の燃料が溶け、原子炉容器の外に溶け落ちて、格納容器内の圧力と温度が上昇する。
また溶け落ちた燃料がコンクリートを損傷し、格納容器の閉じ込め機能が失われる可能性がある。

高浜発電所3号炉4号炉では、格納容器の上部から水を噴射したり、格納容器内を自然対流により冷却するための装置に海水を供給し、格納容器内の圧力と温度を下げることにしている。
格納容器のスプレーによる水は格納容器の下に溜まり、溶融した燃料を受け止め、冷やすことで、コンクリートの浸食を抑える効果もあるとしている。
さらに核燃料が溶けると水が反応して水素が発生する。一定の濃度を越えると格納容器内の酸素と反応して激しい水素爆発を起こす可能性がある。
高浜発電所3号炉4号炉では水素爆発を防ぐ対策として水素を強制的に燃焼させて減らす装置、電源がなくても水素と酸素を反応させて水に変える装置を設置している。
審査ではこのように格納容器の破損原因となる圧力と温度の上昇、コンクリートの浸食、さらには激しい水素爆発を防ぐ対策が講じられていることを確認してきた。

これまで主にハード面の対策を中心に説明してきた。
そうした対策を有効に機能するためには、それらを使うための人がいるか、体制ができているか、手順は整備されているか、実際に使うための訓練がされているか、いわゆるソフト面の対策が重要だ。
審査では重大事故の発生を想定した緊急時の体制や訓練として、注水活動、緊急時対策所での指示、情報把握の活動を確認していること。人員の招集や機材の運搬に必要なアクセルルートを確保することを確認している。

続く

 

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