昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (十) 牧子に思いを巡らせた。

2015-02-18 16:09:47 | 小説
「いいや、諦めた。一晩徹夜したところで、何とかなるさ」
そう呟くと、牧子に思いを巡らせた。

どうする? 部屋まで来て貰おうか。
待てよ、牧子さんには部屋番号までは教えてないぞ。
やっぱり、外で待つべきか。
いや待て、管理人さんを知っているんだ。
きっと、部屋を聞いてくれるさ。
となると…。いっそのこと、ベッドの中に入ってようか。
ノックされてから、寝ぼけ眼でドアを開けようか。
おいおい、眠りこけてたらどうするんだ。気が付かなかったら。
鍵だ、鍵を掛けてなければいいじゃないか。
張り紙をしておこうか。そのまま帰られたら、えらいことだぞ。
しかし、それもおかしいな。うーん…

あれやこれやと独り勝手な思いを巡らしていた彼だったが、いつの間にか眠りに入っていった。
翌朝彼が眼を覚ましたのは、約束の時間の五分前だった。
廊下に響く階段を上がってくる靴音で、目が覚めた。
。鏡を覗き込み、寝癖の激しい髪を水で押さえつけた。
用意してあった紺のポロシャツとジーンズを着込むと、もう一度鏡を覗き込んだ。
とりあえず、髪は温和しくしていた。
「やばい! 急がなきゃ」

「お待た…」
勢いよくドアを開けると、隣室の住人が部屋に入るところであった。
彼は苦笑いをしながら、「お早うございます」と、声をかけた。
今まで、一度も挨拶を交わしたことがない相手だった。
驚きの表情で、隣室の住人も言葉を返してきた。
「あっ、どうも」
ばつの悪さを隠すように、彼は言葉を続けた。
「今、お帰りですか?」
「はあ。夜勤でしたので」
住人は、軽く会釈して部屋の中に入った。


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