昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛の横顔 ~RE:地獄変~ (十五)気の強いお嬢さんだな

2024-11-13 08:00:21 | 物語り

「気の強いお嬢さんだな。驚いたよ、これは」
 手ぬぐいで拭かれながら笑っていらっしゃいます。
そしてわたくしたち3人の輪の中にお入りになり、すこしのあいだ談笑しました。
三郎さまは無類の映画好きでして、中でもチャップリンの[街の灯]と[モダンタイムス]がお好きなようで。
それらの解説を身振り手ぶりを交えて、汗だくになりながらしてくださいました。

[街の灯]は、めしいの娘と貧乏な男との恋愛物語りだったのですが、三郎さまときたら情感たっぷりにお話してくださいました。
そして最後に資本家の横暴さを説かれます。
[モダンタイムス]では、精神を患った労働者と、薄幸の少女とのお話を、涙なみだの物語りとして聞かせていただき、社会の冷酷さを力説されます。

 そしてそのためには「あなたたち婦女子もしっかりと勉強をして社会に立ち向かうべきだ」と締めくくられました。
もうわたくし、すっかり感動してしまいました。
そのときからなのです、わたくしが三郎さまをお慕いもうしあげるようになったのは。
「あたくしにも教えていただけませんか? 
その、難しい学問とやらを。できましたら、そのお仲間とはべつに」

 思わず口にしていました。
すこしでも三郎さまとお近づきになりたいと願ったのでございます。
貴子さんは口をあんぐりと開けられて、信じられないといった表情でした。
いまでこそ男女ふたりだけの逢瀬もありましょうが、なにせ大戦中のことでございます。
「男女七歳にして席を同じゅうせず」でございます。
驚きになられるのもむりはありません。
一子さんにしても眉をひそめられています。

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 夢みる少女のように一点の空を見つめられて、それはそれはながーい嘆息がありました。
思いだされているのでしょう、当時のことを。
初恋というものは美化されてしまいます。
すべてがお花畑でのできごとで、よくいわれます甘酸っぱいものだと。わたしも思います。
当年三十五歳になるわたしですが、奥手と言われる十九歳に初恋の相手と巡り会いました。

出身は九州の鹿児島県は球磨村です。
球磨焼酎は日本全国に知れ渡っていることと思います。
お恥ずかしい話で、わたしは超下戸でございまして、その匂いを嗅いだだけで良い心持ちになってしまいます。
ですので周辺にある酒蔵に就職することもできず、三男坊であるわたしは、中学を出ての集団就職組なのです。
就職先のご好意で定時制高校に通わせていただきました。
そしてその後こんどは学校の推薦によって大学へ。
そういった意味では幸運な学生時代を送らせてもらいました。



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