昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~ (九十四) 女の根性を見せなさい

2014-08-03 11:11:15 | 小説
(三)

「うぐっ! うぐっ! ふー、ふー! うぐっ、うぐっ! ふー、ふー!」

「奥さん、奥さん、頑張って! 気をしっかり持って! 
赤ちゃんも頑張ってるのよ、奥さんも頑張らなきゃ。
女の根性を見せなさい。男なんかに負けないんでしょ」

気を失いかける小夜子を、産婆が叱咤激励する。
時に頬を叩いて、小夜子の手をしっかりと握った。

「ここで頑張らないで、どこで頑張るの? 
女の強さを見せてやんなさい。
男なんかに負けてたまるか、でしょ? 
新しい女は、強いんでしょ?」

「うん、うん」
と頷く小夜子。必死の形相で歯を食いしばり、その痛みに耐え続けている。

夜も明けて、窓の外が白々としてきた。
ぐったりと疲れ果てた小夜子だが、まだ赤子の誕生には至っていなかった。
医師はもちろん看護婦たちにも、疲労の色は隠せない。

「先生、どうしますか。帝王切開に行きますか?」
婦長が、沈痛な面持ちで問いかけた。

「いやだめだ。何とか自然分娩で行こう」
と、力なく首を振る。

「まだ若いんだ、体力があるんだ。体に傷を残すのは、できるだけ避けたいしね。
ご主人も、それを願っておられることだし。もうひと踏ん張りしてもらおう」

“今度だめなら、止むを得んだろう”
喉まで出かかった言葉を、グッと飲み込んだ。
武蔵の懇願が耳に残っている。

「帝王切開は、ギリギリまで待ってください。
自尊心の強い女です。
体に傷が残ってたりしたら、絶望のあまり、とんでもない事態になりそうな気がします」

「母体が危険だと判断しましたら、御手洗さん、施術させてもらいますよ。
とに角、赤子が大きくなり過ぎた。
この二週間の間に、驚くほど大きくなってしまったんですよ」


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