長編恋愛小説 ～ふたまわり・第二部～（十一）の六

「さぁ、さぁ。
皆さん、
大急ぎで着替えてくださーい。
この後、
打ち上げ会をやりまーす。
当百貨店で
二次会まで用意しています。
是非、
ご参加くださーい。」
「うわぁ、太っ腹ぁ！
さすが、坂田さーん。」
モデルたちに歓声が上がり、
バタバタと着替えを始めた。
「小夜子さん、
あなたも参加してね。
アナスターシアも、
参加するの。
あなたとね、
お話しをしたいんですって。」
「うーん・・だめなんです、
あたし。
田舎に帰らなきゃならないので、
そんなに時間取れないんです。
すごく残念ですけど。」
「ニェット，ニェット．」
前田の言葉に、
アナスターシアが小夜子の手を取った。
ひんやりとした手で、
驚くほどに細い指をしていた。

アナスターシアと前田の間で、
しばらく会話が続く。
小夜子には、
さっぱり分からない。
“うーん。
英会話の勉強するべきかなぁ・・。
そうすれば、
直接話せるのよね。”
「困ったわ、
我がままで。」
前田が小夜子に顔を向け、
しばし時間を取った。
「実はね・・。
アナスターシアが、
あなたをホテルに連れて行くと言うの。
そこでね、
お食事をとって
おしゃべりもしたいと言うのよ。
勿論、
私を間に入れてだけどね。
だけど、
私も次の仕事があるしね。」
真っ赤な嘘だった。
前田に次の仕事はない。
デザイナーの卵だと言っても、
前田自身がそう言っているだけで、
認められている訳ではない。
百貨店側は、
通訳としての契約である。
マッケンジーも、
そう思っている。