昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十九)の四

2013-04-18 18:42:54 | 小説
(四)

ほっと安堵の表情を見せる茂作に、
「おめでた、ということか?」
と、繁蔵が覗き込む。

「だから、ないんです。」
と、キッと睨み付ける小夜子だ。

「もういい! 往診は、いらない!」
不機嫌に、吐き捨てるように小夜子が言った。

「おっと、いかんいかん。
それでは私はこれで。

今日中に戻らなければならんのです。
明日、約束があるものですから。

小夜子は、留まってもいいぞ。
二三日ゆっくりするか?」

「いや、一緒に帰る。
病気でもないのに、されちゃうわ!」
つい先ほどの優しい小夜子の声かけが、空しく茂作の耳に響く。

「分かった、分かった。今日はええ。」

“正三の馬鹿たれが。
あいつが小夜子を掴まえておれば、こんなことを言うことはない筈。
昔の優しい小夜子で居てくれるものをまったく役に立たぬ男じゃ。”


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