昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (八) 是非にも紹介してくれよ

2015-01-03 13:44:13 | 小説
「えっ? 本当かい。それは有り難い話だなあ。
今のバイトより、ずっと良いじゃないか。是非にも紹介してくれよ」

彼は、目を輝かせながら答えた。
願ってもない好条件であり、夕食付きというのが何よりも有り難い。
自炊のつもりであったが、結局のところ定食屋での食事になってしまっていた。
バイトを終えてからの自炊は、やはり苦痛であった。

「たゞな、厳しいぞ。成績が上がらなければ、即クビだからな。
まあ需要は多いらしいから、相手を選ぶことはできるらしい。
やる気のある奴を選べば良いことだが。
もう一つ、スケベ心で女の子を選ぶのは止めた方が良いらしい。
中に居るらしいんだ、肉体関係を持ってしまう奴が。
大騒動だぜ、これは。成績が上がればまだ救いもあるが、大抵は急降下だわな。
まっ、君なら心配ないだろうがな」

「うん、うん」
と頷きながら、彼は早苗のことを思いだした。
“そうだな、遊び歩いてしまったからなあ”

「といってだ。男はまた、やりにくい。生意気な奴が多いらしい。
狙う大学がハイレベルだし、親にしても俺達の大学を気にするし、で。
まっ、知り合いがバランスを取ってくれるとは思うがね」

アッという間に定食を平らげてしまった吉田は、
「暑い、暑い」
と言いながら、吹き出る汗も気にせず、熱いお茶を飲み干した。
「おいおい、あんまり脅かすなよ。どちらにしても、頼むよ。
すべて、その塾経営の方にお任せするよ」
彼は、大仰にテーブルに頭をこすりつけた。
吉田は苦笑いをしながら、
「わかったよ」
と彼の肩を叩いた。

「あらっ、ミタ君。何をやらかしたの? 吉田君に、弱みを握られたりしてたの」
突然に、甲高い声が届いた。ぽっちゃりとした体型の、のぶこだった。
彼より二つ年上の女性で、ダンスのサークル仲間だった。
といっても、一度きり顔を出しただけのサークルではあった。
体育系を苦手とする彼が、文化系のサークル募集要項を見ている折りに強引に誘われたのだ。
誘った相手がのぶこでなかったら、彼は承諾しなかったろう。
際だった美人というわけではないが、ふっくらとした顔立ちをしているのぶこだった。


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