ガヤガヤという喧噪の中で、彼は一人窓際の席を陣取った。
テーブルの上には、大盛りのカレーライスが置いてある。
310円の代物である。
いつもならば、母親の言いつけ通りに生野菜を添えるのだが、最近は金欠の為に一品だけにしていた。
茂作のこともあり、学費だけの援助でと仕送り諦めたためだった。
「心配しなくても大丈夫よ」
と、小夜子は言ってはくれた。
しかし、己の都合でアパート暮らしを始めたという負い目もあり、
「アルバイトの収入があるから、何とかなります。どうしてもの時は連絡するから」
と、断った。
それでなくとも、敷金・前家賃で多額の金額を用意させてしまったのだ。
広い全面ガラスから陽光が差し込む、明るい学食での食事はそれなりに美味しかった。
しかし毎度のカレーライスとなると、辟易しないわけではなかった。
たまには定食を食べたいと思いはするが、値段のことを考えると諦めざるを得なかった。
“その内、指の先まで黄色くなるかもな”等と、心の中で苦笑いをする彼だった。
「よお、カレ!」
吉田が声をかけてきた。彼の切望する定食を手にしている。
「やめてくれよ、彼は。名前があるんだから」
彼は苦笑いをしながら、吉田に応えた。
「いいじゃないか。いつもカレーだから、カレで。洒落のつもりだぜ、親しみを込めての」
バンカラな性格の吉田は、学内における唯一の気の置けない友人だった。
誰彼となく声をかける吉田だったが、特に彼との相性が良いらしく常に食事を共にしていた。
通りかかる他の学生達に、
「お前ら、ひょっとしてホモ仲間か?」
と、からかわれるのも一度や二度ではなかった。
そんな時、彼はムッとした表情を見せるが、吉田は
「ははは、バレたか? どうだい、君も入らないか」
と、切り返していた。
「そうそう、いい話があるぜ。どうだい、家庭教師をやらんか。
週二回の、二時間だ。しかも夕食付きだぜ。
月に、一万円貰える。二人抱えれば、二万円だ。三人だと、三万円にもなるぜ。
知り合いが塾を開いているんだが、時々“自宅でお教え願いないか?”という希望があるらしい。
良かったら、紹介するよ」
彼の前に陣取ると、一気にまくし立てた。
テーブルの上には、大盛りのカレーライスが置いてある。
310円の代物である。
いつもならば、母親の言いつけ通りに生野菜を添えるのだが、最近は金欠の為に一品だけにしていた。
茂作のこともあり、学費だけの援助でと仕送り諦めたためだった。
「心配しなくても大丈夫よ」
と、小夜子は言ってはくれた。
しかし、己の都合でアパート暮らしを始めたという負い目もあり、
「アルバイトの収入があるから、何とかなります。どうしてもの時は連絡するから」
と、断った。
それでなくとも、敷金・前家賃で多額の金額を用意させてしまったのだ。
広い全面ガラスから陽光が差し込む、明るい学食での食事はそれなりに美味しかった。
しかし毎度のカレーライスとなると、辟易しないわけではなかった。
たまには定食を食べたいと思いはするが、値段のことを考えると諦めざるを得なかった。
“その内、指の先まで黄色くなるかもな”等と、心の中で苦笑いをする彼だった。
「よお、カレ!」
吉田が声をかけてきた。彼の切望する定食を手にしている。
「やめてくれよ、彼は。名前があるんだから」
彼は苦笑いをしながら、吉田に応えた。
「いいじゃないか。いつもカレーだから、カレで。洒落のつもりだぜ、親しみを込めての」
バンカラな性格の吉田は、学内における唯一の気の置けない友人だった。
誰彼となく声をかける吉田だったが、特に彼との相性が良いらしく常に食事を共にしていた。
通りかかる他の学生達に、
「お前ら、ひょっとしてホモ仲間か?」
と、からかわれるのも一度や二度ではなかった。
そんな時、彼はムッとした表情を見せるが、吉田は
「ははは、バレたか? どうだい、君も入らないか」
と、切り返していた。
「そうそう、いい話があるぜ。どうだい、家庭教師をやらんか。
週二回の、二時間だ。しかも夕食付きだぜ。
月に、一万円貰える。二人抱えれば、二万円だ。三人だと、三万円にもなるぜ。
知り合いが塾を開いているんだが、時々“自宅でお教え願いないか?”という希望があるらしい。
良かったら、紹介するよ」
彼の前に陣取ると、一気にまくし立てた。
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