昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (八) 大盛りのカレーライス

2015-01-02 09:52:40 | 小説
ガヤガヤという喧噪の中で、彼は一人窓際の席を陣取った。
テーブルの上には、大盛りのカレーライスが置いてある。
310円の代物である。
いつもならば、母親の言いつけ通りに生野菜を添えるのだが、最近は金欠の為に一品だけにしていた。
茂作のこともあり、学費だけの援助でと仕送り諦めたためだった。

「心配しなくても大丈夫よ」
と、小夜子は言ってはくれた。
しかし、己の都合でアパート暮らしを始めたという負い目もあり、
「アルバイトの収入があるから、何とかなります。どうしてもの時は連絡するから」
と、断った。
それでなくとも、敷金・前家賃で多額の金額を用意させてしまったのだ。

広い全面ガラスから陽光が差し込む、明るい学食での食事はそれなりに美味しかった。
しかし毎度のカレーライスとなると、辟易しないわけではなかった。
たまには定食を食べたいと思いはするが、値段のことを考えると諦めざるを得なかった。
“その内、指の先まで黄色くなるかもな”等と、心の中で苦笑いをする彼だった。

「よお、カレ!」
吉田が声をかけてきた。彼の切望する定食を手にしている。
「やめてくれよ、彼は。名前があるんだから」
彼は苦笑いをしながら、吉田に応えた。
「いいじゃないか。いつもカレーだから、カレで。洒落のつもりだぜ、親しみを込めての」

バンカラな性格の吉田は、学内における唯一の気の置けない友人だった。
誰彼となく声をかける吉田だったが、特に彼との相性が良いらしく常に食事を共にしていた。
通りかかる他の学生達に、
「お前ら、ひょっとしてホモ仲間か?」
と、からかわれるのも一度や二度ではなかった。
そんな時、彼はムッとした表情を見せるが、吉田は
「ははは、バレたか? どうだい、君も入らないか」
と、切り返していた。

「そうそう、いい話があるぜ。どうだい、家庭教師をやらんか。
週二回の、二時間だ。しかも夕食付きだぜ。
月に、一万円貰える。二人抱えれば、二万円だ。三人だと、三万円にもなるぜ。
知り合いが塾を開いているんだが、時々“自宅でお教え願いないか?”という希望があるらしい。
良かったら、紹介するよ」
彼の前に陣取ると、一気にまくし立てた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿