昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十二) 途方にくれ立ち竦んでしまった

2013-11-25 20:50:21 | 小説
(二)

途方にくれた小夜子、立ち竦んでしまった小夜子。
見知らぬ人ばかりで、声を掛けることができない。

否、これまでの小夜子では、誰かしらが進んで助けてくれていた。
しかし今乗客全員が降りきっても、一人呆然と座っている。

車内見回りに来た車掌に見つけられるまで、放心状態でいた。
棚から下ろされたリュック、結局のところ車掌が改札まで運ぶはめとなった。

「もしもし、富士商会ですか? あたし、小夜…」
「うわあ! みんな、お姫さまからお電話よ! 早く、早く!」

小夜子の声を遮って、電話の向こうで大騒ぎしている。
嬉しさを感じはするが、当惑の気持ちの方が勝ってしまう。

「もしもし、もしもし。あのね、あなた。聞いてくださる?」
「はい、お電話変わりました。徳子でございます、小夜子奥さま。お帰りなさい」

「徳子さんですか? あぁ良かった。
武蔵、居ますか? 今駅に着いたので、迎えに来て欲しいのですけど」

「申し訳ありません、社長は出張中でございます。あ、ご心配なく。
社長よりお早くお帰りになられたら、社員の竹田を回すように仰せつかっております。
すぐにお迎えに走らせますので、少しお待ちくださいませ。」

「そうですか、出張ですか…」

迎えを出すということに安心を覚えた小夜子だが、帰りを待たずに出張に出てしまった武蔵が恨めしくも思えた。


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