昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十六)の七と八

2011-12-31 22:14:06 | 小説


久しぶりの銀座だったが、界隈の人通りもめっきり少なくなっている。
見ることのなかった、女給達の呼びかけに閉口する武蔵だった。
足早に歩きながら、キャバレーへと逃げ込んだ。
「社長!あたい達を殺す気かい!」
梅子から、手荒い歓迎を受けた武蔵だった。
「いゃあ、すまん、すまん。
貧乏暇なしでな、飛び回っていた。
今夜は、罪滅ぼしに、パッと騒ぐぞ。」
「ホントだね?女給全員を呼ぶよ、社長の席に。」
満面に笑みを湛えて、梅子が武蔵にしな垂れかかってきた。
梅子のそんな仕種は、ついぞ無いことだった。
猛女と言われる梅子でも、この不景気は堪えていた。
店長を飛び越えて、オーナー直々に叱咤の声が飛んでくる始末だった。
女給たちからも、移籍の相談がチラホラと入る。
当然ながら常連客を抱える売れっ子たちだ。
梅子の静止も聞かずに飛び出した女給も、二人ほど出てしまった。
そんな折の久々の武蔵だった。



「あぁ、いいとも。但し、不足分は梅子の奢りにしてくれよ。」
武蔵は無造作に懐から札入れを取り出すと、そのまま梅子に渡した。
分厚い札入れを手にした梅子は、
「あぁ、いいともさ。月末にでも、集金に行くから。
で、幾ら用意してきた?」と、中を確認した。
「ほぉ、社長!豪気だねぇ、こりゃ。
みんな、今夜は騒げるよ!」
武蔵の元に、あっという間に十数人の女給達が集まった。
店内を見渡してみると、確かにまばらな客であった。
中央のホールでは、十人足らずがダンスをしている。
良く見ると、女給だけのダンス姿も見られる。
「なんだ、ありゃ・・」
武蔵には、信じられない光景だった。
「仕方ないよ、社長。この不景気だ、客が少なくてね。
ホールがガランとしてちゃ、キャバレーじゃねえわさ。
だから女同士ででも踊ってるのさ。社長、久しぶりに踊るかい?」
梅子が、肉付きの良い女給を指差した。


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