昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

奇天烈 ~赤児と銃弾の併存する街~ (二十二)

2025-02-15 08:00:04 | 物語り

 街中で見かける店は、大きなガラス窓で中がよく見える。
けれどもこの店はガラスの代わりに板材がつかわれていて、中をうかがい知ることができない。
店内が見えないということは、おそらく置いてあるだろうショーケースも見えないわけだ。
ということは、その品揃えもわからない。

 デコレーションケーキが好きなわたしで、クリスマス近くになると無性に食べたくなる。
いちどこの店で買ってみたいものだと思うのだけれども、どうにも敷居がたかい。
そう、値段がわからない。寿司店で見かける時価という文字があたまをよぎる。
ケーキに時価があるわけがないとは思うのだけれども、スーパーで並んでいる大手パンメーカーのそれとは、比較にならない値段だろうということだ。
店内にはいってショーケースをのぞき込み、値段にびっくりしてそのまま外へ。
そんなことはできないだろうし、したくもない。
まだまだ小さなプライドの炎ではなく、ちっちゃな火が燃えているのだ。

 すこし歩いて車の行きかう通りに出ると、いろいろの音やら声が、わたしの耳に飛びこんできた。
交差点で止まった車の運転手がわたしをにらみつけているように感じられて、あわてて下を向いた。
“ま、まさか…そんなことはない。気のせいだ、きっと”
顔を上げると、なにごともなかったかのように、車が走り出していた。

その角の郵便局では、年賀状で世話になっている。
たかだか10数枚の注文なのに、まいとし律儀に予約をとりにきてくれて、11月の購入時には諸々――たとえばお正月用のお箸セット、たとえばティッシュペーパーを袋ではなく箱で、たとえば不織布なのだろうか薄っぺらい台拭き等――の品をくれる。
なのでいつもスーパーのレジ袋を持参していく。
これならば小さくたたんでポケットにしまっておける。
「袋を持参していただいてありがとうございます」と、笑顔を見せてくれる。
「いや、たまたまコンビニでもらったのが、ポケットにはいってて」
 それがうそだということは、当然にわかっているはずだ。
それでも、ニコリと笑みを返してくれる。いい娘さんだ。



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