昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

ごめんね…… (九

2018-02-06 08:30:00 | 小説
 男は大声を上げて、へび女とへびの格闘を面白おかしく講釈し続けた。
何せ薄暗い照明で、更には離れた場所だ。
はっきりと見えているわけではない。
へび女の大仰な手の動きが感じられるだけだ。

「へび以外の食べ物を一切受け付けない特異体質になってしまい、今に至っておりまする~、哀れな娘なのでございます~。
わたくしどもも~、正直のところ困り果てて~いるのでございま~す。
暖かい内は、へびも捕まえられまする~。
がしかし~、冬の寒~い季節ともなりますとぉ~、へびも冬眠してしまいまする~。
早く、わたくしどもと~同じ白いご飯を口にしてくれぬかとぉ~、そう願っているのでございまする~」

 友人は『へびを喰らう女』の哀しい宿命に、大いに同情した。
他愛もない子ども騙しの興行だったのだが、当時の二人には衝撃的なことだった。
インドのニューデリー駅で発見されたという狼少年の話を、授業の中で聞かされたばかりの折だったことで、大いに興味をかきたてられた。

そして友人が、とんでもない事を思いついたのだ。
「面白かったねえ」
と感想を洩らす私に対し、友人は
「あの人を救おう、人間に戻すんだ。
狼少年ですら、戻れたんだ。
大丈夫、愛を持って接すれば、きっと真人間に戻れるさ」
と、息せき切って話し始めた。
気乗りのしない私ではあったが、友人のあまりの剣幕に押し切られた。


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