昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(九十)  けちん坊なんだから

2014-06-17 21:21:43 | 小説
(六)

「いえ、とんでもないです。専務は、小夜子奥様のお体のことをご心配されているだけです。
普段がいろいろとお忙しくされているから、あまりあちこち歩き回るなと」

「ほら、ごらんなさい。あたしが銀座やらを徘徊するのが、嫌なのよ。
どうしたって、お金を遣っちゃうからね。
ほんと、けちん坊なんだから、加藤専務は。でも武蔵は、遣っていいって」

結局は小夜子の意思に従わざるを得ない竹田なのだが、今日に限っては逆らってしまった。
何故かしら、早く送り届けねばならないと思えたのだ。
虫の知らせというと、ちと不吉ではあるけれども。

「太平洋戦争はね、体力勝負で負けよ」

「いえ、そんなことは。
天子さまのお心遣いで負けることにされましたが、最後には大和魂で勝った筈です。
敗戦は、これ以上国民に犠牲を強いたくないからとの、天子さまの思し召しですから」

「竹田は、沖縄戦知らないの? 
勝負ありだったのに、大和魂なんて持ち出しちゃってさ。
特攻機とか回天なんて、とんでもない兵器を開発して。
だからアメリカも、とんでもないものを使ってくるのよ。
原子爆弾やらとかを。丁度良い、実験場にされちゃったのよ」


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