昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (六) 早苗のファーストキス

2014-12-07 11:19:18 | 小説
いつの間にか寝入っていた彼が目覚めたのは、けたたましい早苗の笑い声だった。
外は、すっかり暗くなっていた。
「あゝ、よく寝た。お母さん、お早う、じゃないか。もう暗いんだね」
階段を下りながら、彼は母親に声をかけた。

「起きたの? 丁度いいわ、お夕食が出来てますよ。早苗ちゃんも来てるし、食べましょうか?」
にこやかな表情で、母親が応えた。
「やっと、起きてきた。お兄ちゃんの寝顔って、可愛いね? さっき、少し見とれてたよ」
早苗の屈託のない声に、彼は思わず
「何を、生意気言ってる!」と、かみついた。
「ふふふ…」

早苗は意味ありげに笑うと、彼の傍に寄ってきた。
そして爪先立ちすると、彼の耳元で囁いた。
「ファーストキス、しちゃった」
顔を赤らめながらの早苗の言葉に、彼は意味がつかめずに
「ファーストキスだ?」
と、小声で聞き返した。
そして、昨夜の真理子との事を思い出し、彼も又少し顔を赤らめた。

早苗は彼を廊下に連れ出すと、彼を少しかがませた。
「お兄ちゃんに、チュッ! って、しちゃった。少しお酒臭かったけどね」
耳元にかかる早苗の吐息が、彼にはくすぐったく感じられ、思わず体をよじらせた。
「そんなのは、違うゾ! 本当の、やめた、やめた。早苗にはまだわからんさ」

窘めるような彼の口調に、早苗は思わず体をビクリとさせた。
「お兄ちゃんの、イヂワル!」
少し涙目になりながら、早苗は玄関に駆けだした。
”少しきつい事を言ったかな?”
と思いはしたが、早苗の気持ちに応えてやれない事を知らせる為にも、と思い直した。


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