昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(九十二) 武蔵の本音を言えば

2014-07-16 08:59:58 | 小説
(四)

武蔵の本音を言えば、昨夜のことを問い質されるのが嫌だった。

“ぬいのことを聞かれちゃ叶わんからな。
最近、妙に勘が働くようになってきたし。
何はともあれ、触らぬ神に祟りなし、だ”

小夜子の勘の鋭さというのは、詰まるところ観察眼にある。
相手をよく観察することから始まる。

幼いころに母親の体調の見極めやら、親類縁者の機嫌によっては叩かれるかもしれぬという恐怖感、そして茂作翁の感情の起伏、それらによって培われたある意味哀しい性だった。

妊娠後は、特に匂いが気になる。鼻にツンとくる匂いが、小夜子を苦しめた。
特に化粧品の匂いに鋭敏に反応した。
それ故に普段とは違う匂いが身に付いていれば、すぐに感じ取った。

「最近の殿方は、香水を付けられるのかしら?」
キャバレーとの女との浮気が発覚した折の、小夜子の言葉だ。

「取引先の、ほらM工業の松田さんだ。あの人の接待だよ」
全身に冷や汗を掻きながらも、素知らぬ顔で答えた。

「どうもあの男、小夜子にホの字のようで。
小夜子をチラリチラリと盗み見するのが、俺としては面白くない。
といって、怒鳴りつけるわけにもいかんし。あの男の席には、もう小夜子を連れて行かん。
今朝、言ったじゃないか。これからは接待の同伴はしなくて良いからと」


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