昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(九十二) 香水の匂い

2014-07-17 09:06:24 | 小説
(五)

背広を脱がせた千勢すら気付かぬ匂いに、小夜子が噛み付いたのだ。

「小夜子、勘弁してくれ。キャバレーに行ったんだ。
香水の匂いも、少しは付くだろうさ。千勢、お前、気になるか?」

「いえ。奥様に言われて、ようやく気付きました」
「ほら見ろ。小夜子の気のせいだろうさ」
我が意を得たとばかりに、胸をそらせて大きな声で言う。

「あらあら。今どきのキャバレーでは、お風呂のサービスもあるのかしら?」

「えっ?風呂って…そりゃ何のことだ? 
待てよ、そう言えばビールをこぼされてな、それでおしぼりで、、、」

「言い訳はいいわ! 武蔵の浮気は、病気だものね。
でも、少しは控えてよね。あたしと言う、妻がいるんですからね」
しどろもどろに弁解する武蔵を、ぴしゃりとはねつけた。

それが、つい先月のことだった。
もうしないからと謝って、まだ二週間と経っていない。
舌の根も乾かぬうちの所業では、いくらなんでもと武蔵自身が思ったのだ。
そして今夜、竹田を連れてのご帰還となった。

「小夜子奥さま、千勢さん。社長のお帰りです」
玄関先で、竹田が大声で呼ぶ。千勢が台所から、慌てて飛んできた。

「旦那さま、どうなさったので? お加減でもお悪いのですか?」
竹田が同伴などとは、体調を崩した折ぐらいのものだ。千勢が慌てるのも無理はない。

「なあに、どうしたの? 武蔵、帰ってきたの?」
小夜子が二階から声をかける。
「奥さま、奥さま。旦那さまが…」


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