昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十一) 見透かしていたか

2013-11-16 13:35:17 | 小説
(一)

“やっぱり見透かしていたか。
ましかし、工房やら工人と懇意にしていてくれるのはありがたい。

こけしの職人を工人と呼ぶのは知らなかった。
女将の人脈は、相当のもののようだ。

それとも案外、発展家なのか? 
顔立ちからは想像もできないけれども”

「失礼ながら、女将。あなたは素人さんに見える。
仕事柄いろいろの宿を知っているが…」

武蔵の言葉を遮って、ぬいが笑みを見せながら語りだした。

「社長さまには包み隠さず申し上げますが、あたくし旅館経営などまったくの素人でございまして。
先代の女将が急死したものですから、已むなく後を継いだのでございます。

一時は閉館とも考えたのでございますが、亡くなりました主人の遺言もございますし。
いえいえ、主人は病死でございます」

武蔵にお茶を勧めながら、自身も口を濡らした。

「胸を病んでいたのでございますが、戦時中に他界致しました。
戦地に赴くこともなく、肩身の狭い思いをしながらのことでございました。

そして又、主人を追いかけるように先代の女将が他界致しまして。
女将業の修行途中でございます。

さぞや無念のことと思います。
ですが、残された方はたまりませんですわ」

ころころと笑いながら話すぬい。暗さなど、微塵も見せない。

「あたくしの父は銀行員なのですよ。
今は退職して、悠々自適の生活を送らせていただいておりますけれども。

支店長時代に、主人の旅館に融資をしたことがありまして。
で、そのご縁で嫁いできたようなわけでございます。

まったくの世間知らずの女なのでございます。
ですが、気持ちだけはありますの」と、意気軒昂だ。


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