昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十三) やっと起きた、寝坊すけの武蔵が

2014-03-28 21:24:13 | 小説
(三)

「なにを上げてるんだ? 神様、喜んで受け取ってくれたか?」

「やっと起きた、寝坊すけの武蔵が」

いつもの膨れっ面を見せる小夜子。
そしていつものように指で押して萎(しぼ)ませる。

ぶふっと萎まった唇を突き出す小夜子。
さすがに武蔵も、それ以上のことはためらわれた。

しかしお構いなしにあごを突き出す小夜子だ。
苦笑いをしつつも、小夜子の唇に軽く唇を触れて武蔵が応じた。

「えっ、えっ? な、なんて、はしたないことを」
老人の連れ合いが言う。

「いいじゃない、お婆ちゃん。昔と違うんだから」
海から上がってきた娘がたしなめた。

小麦色の肌に海水がキラキラと輝き、にっこりと笑った白い歯が印象的な娘だった。

「ありがとう、地元の方なの? あたし達はね、新婚旅行なの」

負けじと、小夜子も満面に笑みを湛えて、言葉を返す。

「新婚さんですか? うわあ、おめでとうございます。
どうしてここを選ばれたんですか? 

どちらからお見えになったんですか? 
いつまでみえるんですか?」
と、矢継ぎ早に質問してくる。

「ありがとう。武蔵がね、ここを選んでくれたの。
きらきら輝いてる海をね、どうしても見せてやりたいって。
住まいはね、東京なのよ」

「そんな遠いところからですか? いいなあ、素敵な旦那さまで」

眩しげに見上げるような視線を見せる娘に、
「ふふ。でしょ?」
と、少し誇らしげに、自慢の武蔵を見せびらかす小夜子だ。



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