(五)
小夜子の歩みに歩を合わせながら、快活に話す竹田。
社内での無口さが、まるで別人のようだ。
そして小夜子の荷物を大事そうに両手で抱えて、まるで我が子のように慈しんでいる。
「そう、それは良かったわ、お元気になられて。
母もね、長く床に就いていたの。あの時は幼すぎて、看病の一つもできなかったわ。
心残りだったのよね、それが。
だからね、母への親孝行のつもりだったの」
「看護婦すら敬遠しがちの下の世話までしていただき、感謝の言葉もありません。
男のぼくでは、姉が嫌がりますし」
「そんなの当たり前よ。でもたった、一度のことよ。
看護婦さんが手の離せない状況だったし、お母さまは所用でいらっしゃらないし。
お苦しそうだったからね、仕方ないじゃない。
それに、あの後からあたしにとっても、お姉さんになってくださったんだから。
どうしてもね、遠慮がちだったのよね。まあね、赤の他人だしね。
武蔵のこともあったでしょうしね。気を許して甘えなさいって言う方が無理よね」
「驚きました、ほんとに。
めったに笑わなかった姉が、小夜子奥さまと一緒に、
あんなに大きな口をあけて笑っているなんて。
あごが外れるぞなんて冗談で言ったら、突然その真似をするんですから。
危うく引っかかるところでした」
「お姉さんに会いたくなったわ。お邪魔しようかしら、早い内に。
今度戻られた時にでも、迎えに来てくれる。
そうだわ。あたしがお姉さんを迎えに行ってあげる。
ふふ、びっくりさせちゃおうっと。
どうせ武蔵が居ないんじゃ、お家に居ても仕方ないし。
どう、竹田」
「もちろんです。是非、そうしてやってください。
喜びすぎて、ひっくり返るかもしれませんが。
それでもって入院が長引いたりして。
ハハハ、こりゃいい。あ、すみません」
睨み付ける小夜子に、竹田が慌てて深々と頭を下げた。
「竹田って、そんな冗談が言えるの?」
「いえ、その。そんな、ことは。今日はどうしてか、その…」
小夜子の歩みに歩を合わせながら、快活に話す竹田。
社内での無口さが、まるで別人のようだ。
そして小夜子の荷物を大事そうに両手で抱えて、まるで我が子のように慈しんでいる。
「そう、それは良かったわ、お元気になられて。
母もね、長く床に就いていたの。あの時は幼すぎて、看病の一つもできなかったわ。
心残りだったのよね、それが。
だからね、母への親孝行のつもりだったの」
「看護婦すら敬遠しがちの下の世話までしていただき、感謝の言葉もありません。
男のぼくでは、姉が嫌がりますし」
「そんなの当たり前よ。でもたった、一度のことよ。
看護婦さんが手の離せない状況だったし、お母さまは所用でいらっしゃらないし。
お苦しそうだったからね、仕方ないじゃない。
それに、あの後からあたしにとっても、お姉さんになってくださったんだから。
どうしてもね、遠慮がちだったのよね。まあね、赤の他人だしね。
武蔵のこともあったでしょうしね。気を許して甘えなさいって言う方が無理よね」
「驚きました、ほんとに。
めったに笑わなかった姉が、小夜子奥さまと一緒に、
あんなに大きな口をあけて笑っているなんて。
あごが外れるぞなんて冗談で言ったら、突然その真似をするんですから。
危うく引っかかるところでした」
「お姉さんに会いたくなったわ。お邪魔しようかしら、早い内に。
今度戻られた時にでも、迎えに来てくれる。
そうだわ。あたしがお姉さんを迎えに行ってあげる。
ふふ、びっくりさせちゃおうっと。
どうせ武蔵が居ないんじゃ、お家に居ても仕方ないし。
どう、竹田」
「もちろんです。是非、そうしてやってください。
喜びすぎて、ひっくり返るかもしれませんが。
それでもって入院が長引いたりして。
ハハハ、こりゃいい。あ、すみません」
睨み付ける小夜子に、竹田が慌てて深々と頭を下げた。
「竹田って、そんな冗談が言えるの?」
「いえ、その。そんな、ことは。今日はどうしてか、その…」
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