昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (七十二) 小夜子奥さまー!

2013-11-28 20:06:55 | 小説
(五)

小夜子の歩みに歩を合わせながら、快活に話す竹田。
社内での無口さが、まるで別人のようqだ。

そして小夜子の荷物を大事そうに両手で抱えて、まるで我が子のように慈しんでいる。

「そう、お元気になられたの。それは良かったわ。
母もね、長く床に就いていたの。あの時は幼すぎて、看病の一つもできなかったわ。

心残りだったのよね、それが。
だからね、母への親孝行のつもりだったの」

「看護婦すら敬遠しがちの下の世話までしていただき、感謝の言葉もありません。
男のぼくでは、姉が嫌がりますし」

「そんなの当たり前よ。でもたった、一度のことよ。

看護婦さんが手の離せない状況だったし、お母さまは所用でいらっしゃらないし。

苦しそうだったし、仕方ないじゃない。それに、あの後からあたしにとっても、お姉さんになってくださったんだから。どうしてもね、遠慮がちだったのよね。まあね、赤の他人だしね。武蔵のこともあったでしょうしね。気を許して甘えなさいって言う方が無理よね」
「驚きました、ほんとに。めったに笑わなかった姉が、小夜子奥さまと一緒に、あんなに大きな口をあけて笑っているなんて。あごが外れるぞなんて冗談で言ったら、突然その真似をするんですから。危うく引っかかるところでした」

「そうね、お姉さんにも会いたくなったわ。お邪魔しようかしら、すぐにでも。どうせ武蔵が居ないんじゃ、お家に居ても仕方ないし。今度戻られた時にでも、迎えに来てくれる。そうだ! あたしがお姉さんを迎えに行ってあげる。ふふ、びっくりさせちゃおうっと。そうするわ、竹田」
「もちろんです。是非、そうしてやってください。喜びすぎて、ひっくり返るかもしれませんよ。それでもって入院が長引いたりして。ハハハ、こりゃいい。あ、すみません」
じっと睨み付ける小夜子、深々と頭を下げる竹田。
「竹田って、そんな冗談が言えるの?」
「いえ、その。そんな、ことは。今日はどうしてか、その…」


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