昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(十八)

2024-03-17 08:00:10 | 小説

 とつぜんに、昨年のとんでもない勘ちがい女に出くわした結婚披露宴が思いだされた。
冗談まじりの「披露宴で相手を探したら」という新郎のことばを真に受けた、大きく肩を出したフリル付きのドレス姿で出席した女性のことだ。
新婦がかすむほどの深紅色に、出席者全員が眉をひそめた。
新郎側の親戚だとかで、行きおくれてしまった三十代半ばなのよと聞かされた。
そんな愚行を犯すわけにはいかない。
(引きずっちゃいけないのよ。あたしのことなんだから、二人には関係のないことなのよ)。
ドレッサーに映る己に言い聞かせて、唇に赤い線を引いた。

 交差点での信号待ちで、話に興じながら歩く三人グループの十代のファッションに、貴子が噛みついた。
胴長短足の日本女性にはミニスカートは似合わないという持論を滔々と話しはじめた。
西洋の女性が似あうのは長い足と細さを持っているからよと、ため息混じりにことばを吐いた。
いまのわたしたちでは哀しすぎるわ。
憤懣やる方ないといった貴子の口ぶりに、思わず彼は肩をすぼめた。

(自分が着ないからって、そんなに怒らなくても。それとも、本音では着てみたいのか?)。
 未来の日本女性なら似あうかもしれないけれどね。
あきらめの色が入ったことばが口を出た。
それか普段の貴子には似つかわしくないと、信じられぬ思いだった。
(なんだか変だぞ)。そんな疑念に囚われていた彼に、女神が微笑みかけてきた。

「ごめんなさい、お待たせしました」
 大きな黒縁メガネをかけた、そして貴子の予想どおりのコーディネート――白いブラウスと薄いベージュのスカート姿の真理子が声をかけてきた。
来月に十六歳になる真理子が横断歩道で車の窓をたたいてくる。
ドアを開けてくれと、いまにも車に乗りこみそうな気配を見せている。
スーパーの駐車場はすぐそこだ。
まさか交差点での乗り込みとは考えていなかった彼は、あわ慌てて「駐車場に入るから」と、声をかけた。
(せっかちなんだ)と、会社では見せない真理子とは違う一面を知り、得をした気分を味わった。
ついほほが緩み、嬉しさをかくせなくなる彼だった。

(彼だって、いや、苦笑いするかな……)



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