昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(九十一) 死んだも同然のつまらない男

2014-07-12 17:53:01 | 小説
(十四)

小夜子にと言うよりは、かつての、流産をしてしまった自分に対する戒めの言葉だった。
胎教という名を借りた、梅子自身への赤子への詫びでもあり、教えといったようなものだった。

“怒りを持って接すれば相手も怒り、怨みを抱いて接すれば相手も恨む。
 慈愛の心で接すれば相手も心を開き、尊敬の念を持てば相手も応えてくれる”

梅子なりの信条を、あの時に創り上げた。

「武蔵は、ほんとに小夜子が好きなんだ。
それは分かるね? けども、武蔵の女遊びは、病気だ。どうしようもない。
女遊びを止めちまったら、武蔵は死ぬかもしれない。それ位の大病だわ。
どうだろ、小夜子。
いろいろ含むところもあるだろうけれど、ぐっと飲み込んでおくれでないかい。
女の懐の深さを見せておやりな。
いや案外のこと、子供でもできたら、変わるかもだよ。
あたしの知ってる男に、そういうのが居たよ。
そうだ、ぴたりと女遊びを止めるかもね。
子どもベッタリとなるかもよ。
もちろん武蔵には、釘を刺しておくから」

梅子の思いが、どれほど小夜子に伝わったか。
小夜子自身、武蔵の女遊びについては、諦めの思いがないではなかった。

しかしそれが、男の活力源だと公言してはばからない武蔵だ。
確かに、梅子が言うとおり、武蔵から女遊びを取り上げでもしたら…。
死ぬと言う言葉は大げさにしても
「死んだも同然のつまらない男にはなってしまうだろう」
そう思える小夜子だった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿