(一)
コックリコックリと、茂作が陽光の中で至福の時を過ごしている。
最近は小夜子の夢を見ることも、とんと少なくなった。
少し前までは、小夜子の夢を毎夜の如くに見ていた。
きらびやかな服に身を包み一条の光に導かれて、ホール中央に現れる。
その後ろに、多勢のバックダンサーを従えての登場。
大きく両手を広げて歓声に応える小夜子がいる。
“小夜子、小夜子、……”
茂作の声は、大歓声にかき消されてしまう。
そして茂作の姿が、その視界から突然に消えてしまう。
“ほら、ここにお出で。”
小夜子の白い手が茂作に向けられ、手招きをする。
夢遊病者の如くにふらふらと、小夜子に近寄る茂作。
茂作?いや、そこには小夜子にかしずく正三がいた。
正三が小夜子の前にひざまずき、うやうやしく手を取っていた。
“小夜子さま、正三は永遠の愛を誓います。”
妖艶な笑みを浮かべて見下ろす、小夜子。
見上げる正三、いや今は茂作だった。
茂作が正三に、そして正三が茂作に。
入れ替わるその様に、唯々困惑するだけだ。
“大丈夫、大丈夫よ……”
優しく耳に響くのは、確かに小夜子の声だった。
(二)
「茂作さん、茂作さん。」
うつらうつらとしていた茂作、その声に起こされた。
“小夜子か?おぉう、小夜子か。
戻っててきたか、そうかそうか。
帰ってきたか。”
「茂作さん、為替が届いています。
この証書を持って、局まで来てください。」
と、郵便局員が声をかける。
「おぉう!そうか、為替が着いたか。
そうか、そうか、ありがとうよ!
世話をかけたな。」
竹田小夜子名義の為替が届き始めてから、もう一年が経つ。
差出人に疑問をまったく持たぬ、茂作。
二十歳そこそこの小娘である小夜子が、
如何にして工面している金員なのか、まるで気に留めない。
村人たちの寄り合いの場では、その小夜子の稼ぎ場所が話題になっている。
多分にやっかみが含まれて、いろいろとかまびすしい。
「なんぞ聞いたか?」
「いかがわしい所での稼ぎじゃねぇかと、聞いたが。」
「わしは、妾じゃと聞いたがの。」
「確か、女給をしとるんじゃなかったのか?」
「おおかた、そこで見つけたんじゃろうて。」
「まぁのう、別嬪じゃったからのう。
ない話ではないのう。
しかしそれにしても、茂作も情けない。
孫娘に養ってもらうとは。」
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