昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(四十)の一と二

2012-07-01 12:13:56 | 小説


(一)

コックリコックリと、茂作が陽光の中で至福の時を過ごしている。

最近は小夜子の夢を見ることも、とんと少なくなった。

少し前までは、小夜子の夢を毎夜の如くに見ていた。


きらびやかな服に身を包み一条の光に導かれて、ホール中央に現れる。

その後ろに、多勢のバックダンサーを従えての登場。

大きく両手を広げて歓声に応える小夜子がいる。

“小夜子、小夜子、……”

茂作の声は、大歓声にかき消されてしまう。

そして茂作の姿が、その視界から突然に消えてしまう。

“ほら、ここにお出で。”

小夜子の白い手が茂作に向けられ、手招きをする。

夢遊病者の如くにふらふらと、小夜子に近寄る茂作。

茂作?いや、そこには小夜子にかしずく正三がいた。

正三が小夜子の前にひざまずき、うやうやしく手を取っていた。

“小夜子さま、正三は永遠の愛を誓います。”

妖艶な笑みを浮かべて見下ろす、小夜子。

見上げる正三、いや今は茂作だった。

茂作が正三に、そして正三が茂作に。

入れ替わるその様に、唯々困惑するだけだ。

“大丈夫、大丈夫よ……”

優しく耳に響くのは、確かに小夜子の声だった。



(二)

「茂作さん、茂作さん。」

うつらうつらとしていた茂作、その声に起こされた。

“小夜子か?おぉう、小夜子か。

戻っててきたか、そうかそうか。

帰ってきたか。”


「茂作さん、為替が届いています。

この証書を持って、局まで来てください。」
と、郵便局員が声をかける。

「おぉう!そうか、為替が着いたか。

そうか、そうか、ありがとうよ! 

世話をかけたな。」

竹田小夜子名義の為替が届き始めてから、もう一年が経つ。

差出人に疑問をまったく持たぬ、茂作。

二十歳そこそこの小娘である小夜子が、
如何にして工面している金員なのか、まるで気に留めない。

村人たちの寄り合いの場では、その小夜子の稼ぎ場所が話題になっている。

多分にやっかみが含まれて、いろいろとかまびすしい。

「なんぞ聞いたか?」

「いかがわしい所での稼ぎじゃねぇかと、聞いたが。」

「わしは、妾じゃと聞いたがの。」

「確か、女給をしとるんじゃなかったのか?」

「おおかた、そこで見つけたんじゃろうて。」

「まぁのう、別嬪じゃったからのう。

ない話ではないのう。

しかしそれにしても、茂作も情けない。

孫娘に養ってもらうとは。」


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