昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

えそらごと  (三十一)

2019-01-15 08:00:10 | 小説
 河渡橋が見えてきた。
あの橋を渡ればお別れだ。
このまま時間が止まってくれれば、と思わずにはいられない。

ふと気付いた。
いつも車の出足の遅さに苛立ち隣の車と競争していた彼が、今は全くと言っていいほど気にならないでいる。
ゆったりとした気分で走っている。
勿論別れの時間を少しでも遅くしたいという気持ちはある。
が、それだけではない。

 なにに追われていたのか、信じていた者が離れていく、いや信じていた者に、ある日を境に嫌悪感を抱いてしまった。
(どうしてぼくを信じてくれないんだ)。
そんな思いが頭から離れない。 

 虚無感という言葉が、突如浮かんだ。孤独感と言い換えてもいい。
そして、スピードという危険と隣り合わせの中に自分を置いていたことに気付いた。
一瞬の気の緩みも許されない環境に、自分を追い込む。
そうすることで、充実感を得ていたのかもしれない。

しかし今は、充分に充足感に浸っている。



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