昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第一部~ (十) あご髭を蓄えた初老の男が

2015-03-04 09:20:05 | 小説
♪リリー・マルレーン♪
ドイツ語らしい言語の音楽が流れていた。

「わあ、嬉しい。私の好きな曲だわ。マスター、私が来ること分かってたの?」
「いらっしゃい。そうとも、牧ちゃんの足音が聞こえたから変えたんだよ」

あご髭を蓄えた初老の男が、甲高い声をかけてきた。
ずんぐりむっくりの体型で、髪も殆ど白かった。

「マスター、私の恋人よ。ボクちゃんよ」
突然の牧子の言葉に、彼は驚きの色を隠せなかった。

しかしマスターは、にこやかに微笑みながら
「やっと、連れてきてくれたかい。ボクちゃんって言うのかい? よろしくね」
と、彼に声をかけた。

「あっ、こちらこそ。今夜一晩の恋人です。明日には、きっと振られていますから」
牧子の指示でカウンターに連れ立って座りながら、彼は軽くお辞儀をした。

「こらこら。ばらしちゃ、ダメじゃない。
今夜はね、マスター。マスターに品定めをしてもらおうと思ってるの。
合格したら、ホントの恋人にしようと思って」

彼の軽妙な受け答えに気を良くした牧子は、彼をしっかりと抱き締めながら頬に軽くキスをした。

「そうかい、そりゃあ責任重大だな。よしわかった、しっかりと観察しようか。取りあえず、挨拶は合格だな」
おしぼりとコースターを二人の前に置いて、軽く牧子に対しウィンクをした。

「いつもので、いいかい?それとも、カクテルにするかな?」
「そうねぇ、まずはカクテルがいいかしら。」

何種類かのリキュールを取り出し、シェーカーを振り始めた。
“シャカシャカ”とリズム良く音が鳴り始めた。


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