昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十六) 値引き交渉

2014-05-10 13:13:28 | 小説
(四)

五平と竹田の二人は別室に入り、仕入先に対する値引き交渉の段取りに入った。
血を流す覚悟をしたとはいえ、傷は小さいに越したことはない。

即金支払いとの条件で、二ヶ月間のみの限定値引きを持ちかけることにした。
資金繰りを危ぶむ五平に対し
「銀行から引き出してくる。四の五の言うようなら、奥の手だ。
支店長の金玉を握っているからな、俺は」と、武蔵は意に介さない。

武蔵が意図した如くに
「そうかい、瀬田さんの娘さんとはな。よし、俺も男だ。応援しようじゃないか」
と、同情の声をかけながら経営状態の芳しくない店だけが日の本商会に集まった。

大量の商品を買い込んでみせる店やら、別の店を紹介してやる者も。
しかしそれらの共通として、支払期日に殆どが馬脚をあらわした。

一部の支払いでごまかす店、期日の延期を申し出る店。
そしてそのまま雲隠れした店も出た。

結局日の本商会は、二ヶ月と持たずに音を上げた。元々が無理な価格設定だった。
更には、納入商品の中に粗悪品が混じりこんでいたことが発覚して、あっという間に信用をなくしてしまった。

富士商会が画策したという話がちらりと出はしたが、すぐに立ち消えてしまった。

「やった、やった!」
と戦勝気分に湧く富士商会。

その裏で、日の本商会は悲惨の限りを尽くしていた。
資金調達に無理を重ねて、裏筋の金融にも手を出してしまっていた。

社長本人は勿論のこと妹三人が、店を畳むと同時に苦界に身を落とした。
末っ子の長男は遠洋漁業の船に乗ったとの噂も出た。

そしてこのことが、武蔵の運命に大きく関わってくることになった。


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