昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~(八十六) ニコニコ現金払いだ

2014-05-09 19:33:45 | 小説
(三)

目をギラギラさせて、ひと言も漏らすまいと、皆が聞き込む。
気を抜けば、武蔵が圧倒されそうになる。

「これらの取引については、ニコニコ現金払いだ。
現金引換えだ。手形類は、一切認めない。

この条件を呑まない取引先は、この際切ってしまうぞ。
おまけ不要だから手形で、という取引先も切ってしまう。

踏絵にするぞ、この際に。経営状態の悪いところとは、この際おさらばだ。
お荷物会社を、日の本商会に押し付けてやろうじゃないか。

いいか。温情は持つな! 富士商会だって、大量の血を流すんだ。そこのところを忘れるな。
もう一つ、二ヶ月間は個々の成績にはしない。売上減は当たり前だからな。

逆に減ってくれた方が、損失が少なくて済むからな。
ま、頑張って売らないようにしてくれ。以上だ」

武蔵の訓事後、一斉に営業が飛び出した。事務職たちも、すぐに電話攻勢に出た。
営業が今日には回りきれない取引先に対して、おまけ作戦を匂わせた。

「こちら、富士商会でございます。実は、耳よりの情報がございまして。
順次営業がお伺いしまして、ご説明をさせていただいております。

今日にご入用でない商品でございましたら、ご発注の方はお待ちいただけますでしょうか。
ご不信はご尤もでございますが、お客様に対する感謝の気持ちを込めたセールでございます。

ここだけの話、お宅様だけにお知らせいたしますが、
当社で取り扱っておりません商品につきましても、是非お待ち下さいませ。

必ずや喜んで頂けると存じます。
はい? 日の本商会さま? なんのこと…ま、それは、お口になさらないように…」


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