昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~ (九十三) 〔金で物事を解決する〕

2014-07-29 08:58:58 | 小説
(十一)

〔金で物事を解決する〕

世間では忌み嫌われる言葉だけれども、武蔵にしてみれば、こんな単純な道理はないと考えている。

“金で買えるものは買えばいい。金で買えなければ、汗で買えばいい。
それでも買えないものは…買えないものは奪えばいいってか? 
価値の分かる者が持ってこそ、光り輝くものだ”
と武蔵は考える。

“価値の分かっている者から奪うことになっても、より価値の分かる者ならば良しなんだ。
真に光り輝くことになるんだ、と己を納得させる。
そしてそれは、己以外にはありえないのだ”
と、断じる武蔵だ。

その最たるものが、小夜子なのだ。
想い人が居ると宣した小夜子を強引に己の伴侶とした武蔵だが、武蔵以外の男に、小夜子を光り輝かせることなどできぬ相談だと断じる。

アナスターシアの不慮の死によって、ポッカリと空いた心の隙間に乗じた武蔵だった。
よしんばアナスターシアの死がなくとも、小夜子を妻にすることを諦めるはずはなかっただろう。

より価値の分かる者が、より光輝かせることができる者は俺だとばかりに、強引にいったであろう。
小夜子にとって屈辱的な行為を取ってでも、娶ったに違いない。

その小夜子の出産だ、跡継ぎを生んでくれる小夜子だ。
どれ程の金員を注ぎ込んでも惜しくないと考えるのも無理からぬことだ。

“俺のできることは、ここまでだ。あとは、小夜子の役目だ。
頼むぞ、しっかりと生んでくれよ。
風体なんて、どうでもいい。とに角、丈夫な男子をうんでくれ。
いや、男だろうと女だろうと、どっちでも構わん。
病弱でもいい。無事に生んでくれ。
母子共に、無事でさえいてくれればいいんだ”
神仏にも祈る思いの武蔵だった。



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