昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (六十九) 二)道ならぬ恋

2013-10-27 16:54:43 | 小説
(二)

「兄にとっては……なのですが、父には到底許せるような相手ではなくて」
正三にとって何なのか口ごもってしまい、小夜子には聞き取れない。

「あら、さぞかしご立派なお家柄のご令嬢だと思いましたのに。

お父様がお許しにならないとは、道ならぬ恋というわけではないのでしょう? 
あの真面目な正三さんが選ばれたお相手なら、きっと素敵なお方でしょうに」

どうしても幸恵に痛みを与えねば気が済まぬとばかりに、ねちねちと責め立てる。
幸恵の苦渋に満ちた表情ぐらいでは気が済まぬとばかりに、責め立てる。

「ごめんなさい、小夜子さま。
小夜子さまとのお約束を反故にしておきながら、兄は、兄は……」

幸恵が言葉を詰まらせて、涙の筋が頬を伝い始めたところで
「あなたのせいじゃないことよ。さ、泣くのはおやめなさい」
と、やっと矛を収めた。

「兄は、キャバレーの女給さんに熱を上げているのです。
『女給風情に!』と、父は怒り狂っているのですが。

でも今度ばかりは、兄も譲らないのです。
あ、申し訳ありません。

こんなことなら、小夜子さまとのお約束を反故にしたことは何だったのか、と思えてなりません。

そんなわけで、今は絶縁状態になっております。
叔父の源之助が仲立ちしてはいるのですが、中々に。

父も今は、源之助叔父さまにお任せしているような状態でして。
ですので、母が宴に出席しませんでしたのも、兄のことで床に伏せているものですから」



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