(二)
「兄にとっては……なのですが、父には到底許せるような相手ではなくて」
正三にとって何なのか口ごもってしまい、小夜子には聞き取れない。
「あら、さぞかしご立派なお家柄のご令嬢だと思いましたのに。
お父様がお許しにならないとは、道ならぬ恋というわけではないのでしょう?
あの真面目な正三さんが選ばれたお相手なら、きっと素敵なお方でしょうに」
どうしても幸恵に痛みを与えねば気が済まぬとばかりに、ねちねちと責め立てる。
幸恵の苦渋に満ちた表情ぐらいでは気が済まぬとばかりに、責め立てる。
「ごめんなさい、小夜子さま。
小夜子さまとのお約束を反故にしておきながら、兄は、兄は……」
幸恵が言葉を詰まらせて、涙の筋が頬を伝い始めたところで
「あなたのせいじゃないことよ。さ、泣くのはおやめなさい」
と、やっと矛を収めた。
「兄は、キャバレーの女給さんに熱を上げているのです。
『女給風情に!』と、父は怒り狂っているのですが。
でも今度ばかりは、兄も譲らないのです。
あ、申し訳ありません。
こんなことなら、小夜子さまとのお約束を反故にしたことは何だったのか、と思えてなりません。
そんなわけで、今は絶縁状態になっております。
叔父の源之助が仲立ちしてはいるのですが、中々に。
父も今は、源之助叔父さまにお任せしているような状態でして。
ですので、母が宴に出席しませんでしたのも、兄のことで床に伏せているものですから」
「兄にとっては……なのですが、父には到底許せるような相手ではなくて」
正三にとって何なのか口ごもってしまい、小夜子には聞き取れない。
「あら、さぞかしご立派なお家柄のご令嬢だと思いましたのに。
お父様がお許しにならないとは、道ならぬ恋というわけではないのでしょう?
あの真面目な正三さんが選ばれたお相手なら、きっと素敵なお方でしょうに」
どうしても幸恵に痛みを与えねば気が済まぬとばかりに、ねちねちと責め立てる。
幸恵の苦渋に満ちた表情ぐらいでは気が済まぬとばかりに、責め立てる。
「ごめんなさい、小夜子さま。
小夜子さまとのお約束を反故にしておきながら、兄は、兄は……」
幸恵が言葉を詰まらせて、涙の筋が頬を伝い始めたところで
「あなたのせいじゃないことよ。さ、泣くのはおやめなさい」
と、やっと矛を収めた。
「兄は、キャバレーの女給さんに熱を上げているのです。
『女給風情に!』と、父は怒り狂っているのですが。
でも今度ばかりは、兄も譲らないのです。
あ、申し訳ありません。
こんなことなら、小夜子さまとのお約束を反故にしたことは何だったのか、と思えてなりません。
そんなわけで、今は絶縁状態になっております。
叔父の源之助が仲立ちしてはいるのですが、中々に。
父も今は、源之助叔父さまにお任せしているような状態でして。
ですので、母が宴に出席しませんでしたのも、兄のことで床に伏せているものですから」
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます