(三)
大粒の涙が、拭いても拭いても溢れ出てくる。
幸恵のハンカチが使い物にならなくなってしまい、小夜子の差し出すハンカチもすぐに、
涙でぐしょぐしょになってしまった。
「そんなことになっていますの、それは大変ね。
男は、良き伴侶を得てこそ、大仕事を成し遂げることができますものね。
そんな女性をお選びになるなんて、ご出世の道を自らお断ちになるとは。
正三さんらしくありませんわね。
でも最後にお会いした時は、堂々としてらしたのに。
そうね、きっと一時の気の迷いですわよ。
その内、お目が醒められますわ。
大丈夫! あたくしが選んだ正三さんですもの」
勝ち誇ったように幸恵を見下ろす小夜子。
それみたことか! と目を細める小夜子。
しかし溜飲の下がる思いとともに、
己が一度は生涯の伴侶にと思った男の凋落を善しとせぬ思いも湧いてきた。
「でも……。正直のところ、小夜子さまにお恨みの思いもあるのです。
いえ、分かっております。
兄が悪いのでございます、すべて。
ほんのひと言でも、あたしに小夜子さまへの伝言をと言ってくれれば、と思うのです。
あたしがそのことに気が付いていれば、と悔やまれてなりません。
でも、でも、もう少し待って頂いていれば、と思ってしまうのです」
大粒の涙が、拭いても拭いても溢れ出てくる。
幸恵のハンカチが使い物にならなくなってしまい、小夜子の差し出すハンカチもすぐに、
涙でぐしょぐしょになってしまった。
「そんなことになっていますの、それは大変ね。
男は、良き伴侶を得てこそ、大仕事を成し遂げることができますものね。
そんな女性をお選びになるなんて、ご出世の道を自らお断ちになるとは。
正三さんらしくありませんわね。
でも最後にお会いした時は、堂々としてらしたのに。
そうね、きっと一時の気の迷いですわよ。
その内、お目が醒められますわ。
大丈夫! あたくしが選んだ正三さんですもの」
勝ち誇ったように幸恵を見下ろす小夜子。
それみたことか! と目を細める小夜子。
しかし溜飲の下がる思いとともに、
己が一度は生涯の伴侶にと思った男の凋落を善しとせぬ思いも湧いてきた。
「でも……。正直のところ、小夜子さまにお恨みの思いもあるのです。
いえ、分かっております。
兄が悪いのでございます、すべて。
ほんのひと言でも、あたしに小夜子さまへの伝言をと言ってくれれば、と思うのです。
あたしがそのことに気が付いていれば、と悔やまれてなりません。
でも、でも、もう少し待って頂いていれば、と思ってしまうのです」
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