昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十六)の七

2013-03-19 20:25:34 | 小説
(七)

テーブルにジョニ黒を持ち出し、床にどっかりと腰をおろす。

「今夜は小夜子の寝顔を肴に、一杯やるか。
乾杯したい気持ちだな、まったく。
『小夜子に乾杯!』だ。」

まばたきをする星々を押しのけるように浮かんでいる月に向かって、グラスを掲げる武蔵。

充足感に満ちた表情を浮かべて、
「間髪を入れずに、だな。
小夜子の気持ちがぐらつかぬ内に、一気呵成にいくぞ。」
と、誰に言うともなく口にした。

「いいか、武蔵。
浮気がだめだとは言わないけれども、小夜子を泣かすことだけはいかんぞ。」

窓に映る己に、言い聞かせるが如きの武蔵。
そんな己に酔った。

薄雲が月を陰らせて行く。
まばたいていた星々がその動きを止めた、と武蔵の目に映った。

しかしすぐに又、輝きを取り戻した星々。
それが武蔵たちの行く末を暗示したのかどうか、どう考えるべきか。

「う、うーん。タケゾー、タケゾー!」
隣に居た武蔵の居ないことに、声も大きく呼ぶ小夜子。

手にグラスを持って小夜子を振り返る武蔵が目に入った時、小夜子の胸の奥底をぐっと締め付けるものをあった。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿