昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~ふたまわり・第二部~(二十八)の五と六

2012-01-28 14:49:22 | 小説
三部構成の、
大長編です。
どうぞ気長に、
読んでください。
実はこれ、
まだ執筆中なんです。
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「お願いですから、大声で呼ぶのは止めて下さい。」
「いや、止めん。
小夜子に、悪い虫が付かないようにしてるんだ。
小夜子は、可愛い娘だ。
いつ何時、小夜子を狙う不逞の輩が現れるやも知れん。
俺の贔屓だと知れば、手を出す男もおらんだろうから。」

懇願する小夜子に対し、武蔵は快活に笑いながら答えた。
武蔵を取り囲む女給達も、今では小夜子に悪感情を抱く者は居なくなった。
皆、微笑ましく二人の痴話話を聞いている。

「もう、悪い虫は付いてるだろうが。
タケゾー虫が。」
梅子が、ニコニコと席に着く。
わざわざ武蔵と小夜子の間に、割り込んで座り込む。
小夜子に対する思いやりではなく、武蔵への援護射撃なのだ。
ギラギラとした武蔵からの風を、和らげているのだ。

「どうだ?愛しい彼からは、連絡は来たのか?
もうこっちに、来ている頃だろうに。」
半ばからかい気味に言う武蔵だったが、みるみる小夜子の顔が曇った。
「こりゃ、いかん。
俺が悪かった、勘弁してくれ。
入省早々というのは、何かと忙しいもんだ。
官吏様になったんだからな。」

「ほらほら、小夜子にジュースがないぞ!
小夜子が泣いてるぞ。」
フロアのボーイに、梅子が怒鳴る。





「それとも・・迷子になっているのかもしれんぞ。
キチンと住所は書いたのか?
番地を間違えたりすると、届くまでに時間がかかるぞ。」
無言を通す小夜子に対し、武蔵は何度も言葉をかけた。
突然小夜子が、梅子の胸で泣きじゃくり始めた。
先夜の加藤の小言が思い出されて、溢れる涙を止めることが出来なくなった。

夜の仕事は、思った以上に負担になっていた。
どうしても、帰り着く時間が午前一時を回ってしまう。
家人の眠りを妨げないようにと、息を殺して歩くのだが、時として起こしてしまう。
奥方の咳払いに、肩を窄めることもしばしばだった。

「今帰ったのかね。
ちょっと話があるから、書斎に来なさい。」
思いもかけぬ、加藤の声だった。
躊躇しつつも、断るわけにはいかない。
“明日の朝では、だめでしょうか?”
喉まで出かかった言葉を、小夜子は飲み込んだ。
「遅くなりまして・・失礼します・・」

そっとドアを開けて、小夜子は深々とお辞儀をした。
加藤だけだと思っていた小夜子だったが、痛いほどの奥方の視線を感じた。
蔑みの色が、その目に宿っていた。


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