昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~ふたまわり・第一部~(四)の十

2011-04-17 18:00:27 | 小説
「さっ、小夜子。
もう、良いだろう。
宿に戻ろう。」
初老の男が、立ち上がった。
茂作翁だった。
明らかに不満げな表情を見せつつも、
渋々小夜子も立ち上がった。
確かに女学生である小夜子が、
を踏み入れるような場所ではなかった。
しかし生演奏を聞かせてくれる場所は、
こういったキャバレーでしかないのだ。
田舎の本家で聞かされた、
レコード盤によるジャズ演奏に感銘を受けた小夜子は、
どうしても生演奏を聞きたくなった。
小夜子の通う女学校で話題に上ることはあるが、
物足りなさを禁じえない小夜子だった。

女学校で持て囃されたのは、
「真珠の首飾り」等に代表されるビッグバンド物だった。
勿論小夜子にしても狂喜して聞いてはいたが、
人一倍プライドの高い小夜子は、
より先鋭化しているジャズ曲を欲した。
とに角、
クラスメートとは一線を画していたかった。
「そんなお子様向けじゃなく、
大人のジャズを聞いてみなさいよ。」
小夜子の口癖だった。
戦前に禁止された、ヴァシレンシア、ダイナ、
といった曲を口にした。
そのくせ、
笠置シヅ子の東京ブギウギやら買い物ブギを、
人知れず口ずさんでもいる小夜子だった。


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