昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空・第二部~ (五十二) 五

2012-12-22 15:19:31 | 小説
(五)

竹田の稼ぐ給金は、こうして殆んど失くなってしまう。
他の二人がせっせと通うキャバレー。
時には羨ましいと思うこともあったが、すぐにその思いは消えた。

「勝利。お前は、姉ちゃんが可哀相だとは思わんのか! 
お前がこうしてたくさんのお給金を頂けるのは、姉が病にかかっているからぞ。
神さまが哀れに思われての、お給金なのじゃ。」

それが今は、五平の一喝で祈祷師も占い師も来ない。
母親も又、憑き物が落ちたように落ち着いている。

それに何より、姉の回復がありがたい。
小夜子相手に、将来の夢を語り始めた姉が嬉しい。

「ねえねえ、タケゾー。
勝子さん、すっかり元気になってくれた。

あたしのおかげですなんて、手を合わせるのよ。
看護婦さんたちもね、そう言ってくれるの。
恥ずかしくなっちゃう。」

目を輝かせて武蔵に病院でのことを話す小夜子。
キラキラと輝くその瞳をじっと見つめて、武蔵の頬も緩みっぱなしだ。

「小夜子。昨日、お前の実家に行かせたよ。」
突然の、寝耳に水の武蔵のひと言。

言葉を失ってしまった小夜子。
見る見る顔が紅潮し、わなわなと唇が震える。


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