彼に、嫌も応もなかった。
やっと様になってきたところであり、面白さがわかりかけてきたところだ。
「良いですけど。何処で、ですか?」
「場所の心配はないの。私のマンション、フローリングなのよ。
時々、サークル仲間と練習してるの。じゃ、善は急げね」
耀子のマンションは、歩いて五分程度の場所にあった。
二十階建ての高層ビルで、十七階に居を構えていた。
道々話を聞くと、実家は医者だということだった。
一人娘であることから、いずれは養子を迎えるらしい。
現在、実家の方で話が進んでいるらしかった。
すべて親任せの結婚話ということに、彼は違和感を覚えるのだが、耀子はまるで意に介していないようだった。
「大事な一人娘に、変な男をくっつける筈がないじゃない」
彼の疑問は、その一言で片づけられてしまった。
「大学生活を、思いっきりエンジョイするのよ。好きなように、させてもらうわ」
耀子は満面に笑みを浮かべて、彼を部屋に招き入れた。
ドアを開けるや否や、驚いたことに
「お帰りなさあい! お邪魔してるわよ」
と、のぶこの声が飛び込んできた。
「なぁに、また来てるの。どうしたの、今日は。また、彼と喧嘩なの?」
耀子は、”上がんなさい”と彼に目配せをすると、乱雑に靴を脱いでサッサと中に入り込んだ。
彼は声を出すことなく、放置されたままの靴を揃えてから床に足を乗せた。
「それがねえ、ひどいのよ、彼。時間に遅れちゃうと思って、急いで駆けつけたの。
電車じゃダメだから、タクシーなんか捕まえて。ところが、待てどぉ暮らせど、来ないの」
彼には信じられない口調だった。
声色は、確かにのぶこなのだ。甲高い声は、紛れもなくのぶこなのだ。
しかし、その語り口が全くの別人だった。抑揚の激しい言葉なのだ。
彼の知る、理知的なのぶこではなかった。
やっと様になってきたところであり、面白さがわかりかけてきたところだ。
「良いですけど。何処で、ですか?」
「場所の心配はないの。私のマンション、フローリングなのよ。
時々、サークル仲間と練習してるの。じゃ、善は急げね」
耀子のマンションは、歩いて五分程度の場所にあった。
二十階建ての高層ビルで、十七階に居を構えていた。
道々話を聞くと、実家は医者だということだった。
一人娘であることから、いずれは養子を迎えるらしい。
現在、実家の方で話が進んでいるらしかった。
すべて親任せの結婚話ということに、彼は違和感を覚えるのだが、耀子はまるで意に介していないようだった。
「大事な一人娘に、変な男をくっつける筈がないじゃない」
彼の疑問は、その一言で片づけられてしまった。
「大学生活を、思いっきりエンジョイするのよ。好きなように、させてもらうわ」
耀子は満面に笑みを浮かべて、彼を部屋に招き入れた。
ドアを開けるや否や、驚いたことに
「お帰りなさあい! お邪魔してるわよ」
と、のぶこの声が飛び込んできた。
「なぁに、また来てるの。どうしたの、今日は。また、彼と喧嘩なの?」
耀子は、”上がんなさい”と彼に目配せをすると、乱雑に靴を脱いでサッサと中に入り込んだ。
彼は声を出すことなく、放置されたままの靴を揃えてから床に足を乗せた。
「それがねえ、ひどいのよ、彼。時間に遅れちゃうと思って、急いで駆けつけたの。
電車じゃダメだから、タクシーなんか捕まえて。ところが、待てどぉ暮らせど、来ないの」
彼には信じられない口調だった。
声色は、確かにのぶこなのだ。甲高い声は、紛れもなくのぶこなのだ。
しかし、その語り口が全くの別人だった。抑揚の激しい言葉なのだ。
彼の知る、理知的なのぶこではなかった。
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