「バチーン! って、あたいの頬を叩きやがったんだ。
親だって叩けないんだよ、あたいを。びっくりだよ、こっちは。
それなのにあいつ、泣いてるんだ。
目に一杯涙をためてるの。冗談じゃないよね。痛いのはこっちだよね。
打(ぶ)たれたのはあたいなんだからさ。泣きたいのは、あたいだろうが。
あいつね、優しいんだ。
あたいのことで、喧嘩したことがあるんだ。
あたいにイタズラをしようとした男にね、食って掛かってくれたことがあるんだ。
でもさ。てーんで、弱いの。反対にボコボコにされてさ。
ホンと言うとね、打たれたのは痛かったけど、嬉しかった。
あたいのこと、ホンとに大事に思ってくれてるんだ。
でね、あたいね、あいつに何かあげたかったの。
でもさ、少ししかお金貰えないし。貰ってもすぐにつかっちゃうし。
でね、あたいをあげようと思ったんだ。
抱かせてやろうって思ったんだ。
それなのに、それなのに‥‥」
もう声にならなかった。小さな店に、女の泣き声が響き渡った。
「はい、バー止まり木でございます。
ああ、どうもいつもお世話になってます。
はい、お見えになってますよ。はい、変わりましょうか?
はい、分かりました。ご苦労さまでした」
一礼をしながら受話器を置くと、
「松浦さん、カオリさんからです。お店に来て欲しい、とのことです」
と、客の一人に声をかけた。
「ありがとう! それじゃ、行きますか。早く行かんと、またふてくされちまうぞ。
マスター、これで足りるか? 残ったら、貯金だ。
不足なら、次回に回してくれ」
万札を数枚マスターに渡して、他の二人を急かした。
「あんな、お客を客とも思わんような女。課長も人が好いスね。
なんで、通い詰めるんでス? 惚の字なんスか?」
「いや、いや。あれで中々、情が深いんだよ。照れ隠しで、キツイ言葉を使ってるのさ」
後輩らしい男が口を尖らせるが、松浦という男は取り合わなかった。
もう一人の男は、ただニヤニヤとしているだけだった。
「じゃ、マスター、又!」
「はい、ありがとうございました」
親だって叩けないんだよ、あたいを。びっくりだよ、こっちは。
それなのにあいつ、泣いてるんだ。
目に一杯涙をためてるの。冗談じゃないよね。痛いのはこっちだよね。
打(ぶ)たれたのはあたいなんだからさ。泣きたいのは、あたいだろうが。
あいつね、優しいんだ。
あたいのことで、喧嘩したことがあるんだ。
あたいにイタズラをしようとした男にね、食って掛かってくれたことがあるんだ。
でもさ。てーんで、弱いの。反対にボコボコにされてさ。
ホンと言うとね、打たれたのは痛かったけど、嬉しかった。
あたいのこと、ホンとに大事に思ってくれてるんだ。
でね、あたいね、あいつに何かあげたかったの。
でもさ、少ししかお金貰えないし。貰ってもすぐにつかっちゃうし。
でね、あたいをあげようと思ったんだ。
抱かせてやろうって思ったんだ。
それなのに、それなのに‥‥」
もう声にならなかった。小さな店に、女の泣き声が響き渡った。
「はい、バー止まり木でございます。
ああ、どうもいつもお世話になってます。
はい、お見えになってますよ。はい、変わりましょうか?
はい、分かりました。ご苦労さまでした」
一礼をしながら受話器を置くと、
「松浦さん、カオリさんからです。お店に来て欲しい、とのことです」
と、客の一人に声をかけた。
「ありがとう! それじゃ、行きますか。早く行かんと、またふてくされちまうぞ。
マスター、これで足りるか? 残ったら、貯金だ。
不足なら、次回に回してくれ」
万札を数枚マスターに渡して、他の二人を急かした。
「あんな、お客を客とも思わんような女。課長も人が好いスね。
なんで、通い詰めるんでス? 惚の字なんスか?」
「いや、いや。あれで中々、情が深いんだよ。照れ隠しで、キツイ言葉を使ってるのさ」
後輩らしい男が口を尖らせるが、松浦という男は取り合わなかった。
もう一人の男は、ただニヤニヤとしているだけだった。
「じゃ、マスター、又!」
「はい、ありがとうございました」
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