昭和の恋物語り

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長編恋愛小説 ~水たまりの中の青空~ (九十五) 専属の看護婦を付けて欲しいわ

2014-08-09 13:18:16 | 小説
(三)

「いっそ、専属の看護婦を付けて欲しいわ」

後ろから、悲痛な叫びにも似た声が洩れた。
勿論そのようなことが罷り通るなどとは、思っていない。
しかし皆が皆、大きく頷いた。

「そうね、それが良いかもね。婦長の権限でやっても良いものかしら。
だけど、誰が付くの? 新米さんでは心もとないし。
あなた達ベテランを付けるのもどうかと思うし」

互いの顔を見合っている看護婦たちに、
「あのぉ、ちょっとご相談があるのですけれど…」
と、竹田の母が声をかけた。

「身内じゃない者が、付き添いなんぞをやらせて頂けるものでしょうか? 
御手洗小夜子さんの、付き添いを社長さまから頼まれたのですが」

一斉に拍手が起きた。一も二もなく
「勿論ですとも、もちろんですとも。そうですか、ご主人さまが。そうですか、そうですか」
渡りに舟とばかりに、すぐその日からの付き添いと決まった。

昨日のこと、柳眉を上げて不平をまくし立てる小夜子を見た竹田の母親だった。
小夜子の我がままだと見えるのだが、初めての出産では止むなしかと思えぬでもない。

愚痴を聞いてやれば多少は気持ちも収まるかと思ったが、話をしている内に小夜子の気が高ぶり始めて、その剣幕は留まることをしらない。

そしてとうとう、赤子を起こしてしまった。
火の付いたように泣き叫ぶ赤子、小夜子が病気のせいだとわめき立てた。


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