長編恋愛小説 ～水たまりの中の青空・第一部～ （八） 『ランバダ』だよ。

「今、起きます。起きますから、待っててください」
一時の酩酊状態からは抜け出したものの、体に力が入らない彼だった。
「情けないぞお！　妙齢の女二人が居るというのに」
耀子のそんな声に、のぶこが呼応した。
「そうだ、そうだあ！　男なら、襲ってみなさいよ」

突然に二人とも、Ｔシャツを脱ぎ始めた。
ごく自然な成り行きの如くに、彼の眼前でそれは繰り広げられた。
閉じられそうになる瞼を、彼は必死の思いで開けた。

「のぶこ。右だけ、大きくなったんじゃない？　彼に言いなさいよ、平等に愛してって」
「やっぱり！　私も、そう思ってたのよ。でもさ…」
少し顔を赤らめながら、のぶこは彼との秘め事を身振り手振りを混じえて話し始めた。

「うん、うん。いやだあ、そんなこと。今の私には、毒よ」
等と嬌声を発しながら、耀子は聞き入った。
時折、ソファに横たわる彼に、
「こらっ、ミタちゃん！　聞いてるか？　当てられっぱなしで、辛いぞ！」
と、彼の手を揺すったりした。

そして体を彼に向けて、
「どお？　ダンスで鍛えた体よ」
と、挑発するような素振りを見せた。
彼は、恐る恐る手を伸ばしたが、
「十年、早い！」
と、耀子によってその手を払いのけられた。

のぶこは妖艶な表情で、そんな二人を見つめていた。桜色に上気している肌は、キラキラと輝いて見えた。
「のぶこ、おいでよ」
部屋の中央近くで、二人は踊り始めた。スローなテンポの曲に乗って踊る二人を、彼は夢見心地で見ていた。
突然に激しいリズムの曲に変わると、ピッタリと肌を寄せ合いながら踊り始めた。

「知ってる？　ミタちゃん、『ランバダ』だよ。ミタちゃんと、踊りたかったのにね。うふふ」
そんな激しい踊りに魅入りながら、また彼は眠りに落ちていった。