五
年が開け、春の訪れが聞こえ始めた頃、さすがの武蔵も
“これまでか!”と、観念した。
社員への給料も遅配に始まり、とうとうこの月には欠配となる。
既に、武蔵は勿論のこと五平の自宅も、銀行への担保に取られている。
倉庫に眠る機械類も、担保に入れた。
「社長!街金に駆け込みましょう。
もう少しです、もう少しの辛抱です。」
五平が、武蔵に迫った。
しかし武蔵は、首を縦に振らない。
「いや、ダメだ!
一度でも街金を利用すると、銀行が逃げる。
これからは、銀行との付き合いが第一となる。」
「しかし・・」
「まぁ、待て。最後の手段だ、銀行を脅してくる。
この手だけは、使いたくなかったんだが。」
「そ、そんな・・。銀行を脅すなんて・・。
気は確かですか、社長。」
「支店長だよ、支店長。
使い込みをやってる奴が、いるんだ。
梅子からの情報だから、間違いはない筈だ。
なぁに、失敗したところで、お前がいる。
俺が警察の世話になったら、後はお前が取り仕切れ。
物を、叩き売ってもいい。
何としても、持ち応えろ。」
悲壮な覚悟を告げる武蔵に、五平は思い留まるよう懇願したが、無駄だった。
六
雨の降る中、武蔵は車へと向かった。
確証があるわけではない、キャバレーの女給から聞いただけの話である。
知らぬ存ぜぬで、押し切られる可能性もある。
恐喝罪に問われる危険性が高い。
それでも武蔵は、何としても銀行から引き出すつもりだった。
「車まで、送ります。」と言う五平を制して、少し離れた駐車場に向かった。
と、その時、ビルの陰に潜んでいた男が、武蔵に向かって突進してきた。
手にキラリと光る刃物があった。
体をかわす間もなく、武蔵のわき腹に突き刺さった。
見も知らぬ男だった。
「天誅!」と叫ぶや否や、男はそのまま雨の中を走り去った。
崩れ落ちる武蔵だったが、雨が幸いした。
手の握りが弱かったらしく、深手にはなからなかった。
それでも過労のせいもあり、一ヶ月ほどの入院となってしまった。
その日、五平の決断で、社員全員に給料の欠配を告げた。
「三ヶ月間、辛抱してくれ。必ず、神風が吹く。」
三人の説得も功を奏し、結局47人の社員が残った。
“まるで、忠臣蔵だな。
こうなると、社長の入院が良かったのかもしれんな。”
一人五平は、呟いた。
年が開け、春の訪れが聞こえ始めた頃、さすがの武蔵も
“これまでか!”と、観念した。
社員への給料も遅配に始まり、とうとうこの月には欠配となる。
既に、武蔵は勿論のこと五平の自宅も、銀行への担保に取られている。
倉庫に眠る機械類も、担保に入れた。
「社長!街金に駆け込みましょう。
もう少しです、もう少しの辛抱です。」
五平が、武蔵に迫った。
しかし武蔵は、首を縦に振らない。
「いや、ダメだ!
一度でも街金を利用すると、銀行が逃げる。
これからは、銀行との付き合いが第一となる。」
「しかし・・」
「まぁ、待て。最後の手段だ、銀行を脅してくる。
この手だけは、使いたくなかったんだが。」
「そ、そんな・・。銀行を脅すなんて・・。
気は確かですか、社長。」
「支店長だよ、支店長。
使い込みをやってる奴が、いるんだ。
梅子からの情報だから、間違いはない筈だ。
なぁに、失敗したところで、お前がいる。
俺が警察の世話になったら、後はお前が取り仕切れ。
物を、叩き売ってもいい。
何としても、持ち応えろ。」
悲壮な覚悟を告げる武蔵に、五平は思い留まるよう懇願したが、無駄だった。
六
雨の降る中、武蔵は車へと向かった。
確証があるわけではない、キャバレーの女給から聞いただけの話である。
知らぬ存ぜぬで、押し切られる可能性もある。
恐喝罪に問われる危険性が高い。
それでも武蔵は、何としても銀行から引き出すつもりだった。
「車まで、送ります。」と言う五平を制して、少し離れた駐車場に向かった。
と、その時、ビルの陰に潜んでいた男が、武蔵に向かって突進してきた。
手にキラリと光る刃物があった。
体をかわす間もなく、武蔵のわき腹に突き刺さった。
見も知らぬ男だった。
「天誅!」と叫ぶや否や、男はそのまま雨の中を走り去った。
崩れ落ちる武蔵だったが、雨が幸いした。
手の握りが弱かったらしく、深手にはなからなかった。
それでも過労のせいもあり、一ヶ月ほどの入院となってしまった。
その日、五平の決断で、社員全員に給料の欠配を告げた。
「三ヶ月間、辛抱してくれ。必ず、神風が吹く。」
三人の説得も功を奏し、結局47人の社員が残った。
“まるで、忠臣蔵だな。
こうなると、社長の入院が良かったのかもしれんな。”
一人五平は、呟いた。
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